第36話『まずは比べる』
第36話『まずは比べる』
職人の指は、紙に描かれた横線の上にあった。
クロードは何本も並んだ線を見つめ、もう一度考えた。
「線一本分の水の量は、まだ分からないんだ」
「では、何を知りたいのか、もう少し聞かせてもらえますか?」
「石を入れたとき、どれくらい水が上がるか比べたい」
「違う石を入れて、どちらが大きいか調べるんですね?」
「うん!」
職人は頷き、紙の上を指でなぞった。
「それでしたら、最初から水の量を決めなくても使えそうです」
「本当?」
「同じ容器に同じ高さまで水を入れて、石を一つずつ沈めてみるんです。こちらは線二つ分、あちらは三つ分、という具合に」
クロードの目が輝いた。
正確な体積は分からなくても、同じやり方で比べた結果は残せる。
今の自分には、それだけでも十分面白い。
「じゃあ、同じ間隔で線を引いてほしい!」
「その前に、容器の形も考えましょう。途中で内側の太さが変わると、線一本分の水の量も変わりますから」
「そっか。じゃあ、まっすぐにした方がいいね」
「ええ。できるだけ同じ太さにしてみましょう」
クロードは紙を引き寄せ、筒の線を描き直した。
「それと、細くしたいんだ。同じ石でも、水がもっと上がるから」
「なるほど。でも、あまり細いと石が入りませんよ」
「あっ……」
職人は笑って、親指と人差し指で小さな輪を作った。
「どのくらいの石を入れるんです?」
「これくらいかな」
クロードが指で大きさを示すと、職人は輪を少し広げた。
「それなら口はこのくらい欲しいですね。背を高くしすぎると倒れやすいですし、底も安定させたいところです」
「倒れたら水がこぼれちゃうね」
「それだけじゃありません。ガラスですから、割れることもあります」
横で聞いていたエリスが、クロードを見た。
「扱うときは私にも見せてね。無理をして使わないこと」
「うん、母さま」
職人は紙に底の形を描き足し、石が入る口の広さを確かめた。
クロードも自分の絵と見比べながら、気になるところを尋ねる。
細い筒にすることばかり考えていたのに、使うときに気をつけることが次々に出てくる。
「この形なら作れそうです。ただ、手で作るものですから、太さも線の位置も、ぴったりには揃いませんよ」
「うん。まずは比べてみたいんだ」
「でしたら、一つ試しに作ってみましょうか」
「作ってくれるの?」
「ええ。もちろん、少し時間はいただきますが」
クロードはエリスを見上げた。
「母さま、お願いしてもいい?」
「使い方も、きちんと考えていたものね。まずは一つ、お願いしましょう」
エリスが費用と受け取りについて職人に尋ねる間、クロードは二人で描き直した紙を眺めていた。
最初に持ってきた絵とは、少し形が違う。
けれど、どこを変えたのか、今なら一つずつ説明できる気がした。
話しているうちに、知らなかったことがいくつも見つかったのだ。
「ありがとうございます!」
「こちらこそ。変わった注文ですが、作るのが楽しみですよ」
職人が笑うと、クロードも笑った。
まだ容器はできていない。
それでも、家の木箱にある石を思い浮かべるだけで、早く比べてみたくなった。




