第35話『職人の手』
第35話『職人の手』
畑から帰ってしばらくたった頃、クロードは机の上に『石の記録』を広げていた。
木箱から取り出した二つの石は、色も形も少し違う。
重さは厨房の天秤で比べられたが、水に沈めたときの水面の上がり方は、まだうまく記録できていない。
「細くて、横に線がある容器か……」
以前、エリスに話した道具を思い出し、紙に絵を描いてみる。
細長い筒の底を閉じ、側面には何本も線を引いた。
石を入れるのだから、口は小さすぎない方がいい。
けれど、どうすればこんな形に作れるのかは分からなかった。
◇
「母さま、職人さんに会ってみたい」
描いた紙を差し出すと、エリスは手に取って眺めた。
「前に話していた、石を調べる道具ね?」
「うん。作れるか聞いてみたいんだ」
「ガラスを扱う職人さんなら、相談できるかもしれないわ」
「じゃあ、会いに行ける?」
「一人では行けませんよ」
「母さまと一緒に行く!」
エリスは笑い、紙を返してくれた。
「それなら、出かけられる日を考えましょうね」
すぐに行けるわけではなかったが、クロードは絵を何度も見直しながら、その日を楽しみに待った。
◇
準備が整い、エリスと馬車で町へ向かった。
窓の外には畑や家が続き、荷車を引く人や道具を運ぶ人が見える。
町へ入ると建物が増え、店先には金属製の道具も並んでいた。
「あの金具、何に使うの?」
「扉につけるものじゃないかしら」
「じゃあ、あっちのは?」
「クロード、今日は何をしに来たの?」
「ガラスの容器を作れるか聞きに来たんだ!」
答えながらも、クロードの目は店先へ戻ってしまう。
エリスに手を引かれ、ようやく目的の工房へ着いた。
中へ入ると、外とは違う熱気が頬に触れる。
奥には炉があり、一人の職人が長い棒をゆっくり回していた。
先端についた赤く光る塊が、息を吹き込まれると少しずつ膨らんでいく。
「……すごい」
クロードは目を離せなかった。
前世でもガラスを熱して形を作る方法は知っていたが、実際に目の前で見るのは別の面白さがある。
職人は棒の角度を変え、塊の形を確かめながら作業を続けている。
もっと近くで見たくなったが、エリスに言われた場所から動かず、じっと手元を追った。
作業が一区切りつくと、職人がこちらへやって来た。
「お待たせしました、奥様。それで、ご相談というのは?」
「この子が欲しいものを考えたのです。クロード、見せてごらんなさい」
クロードは紙を広げた。
「水を入れて、石を沈める容器が欲しいんだ」
「石を、ですか?」
「うん。石を入れると水が上がるでしょ? どれくらい上がったか知りたいの」
「なるほど。それで、この横の線は?」
「水の高さを比べるため」
職人は紙をじっくり眺めてから尋ねた。
「では、線一本分は、どれだけの水の量にしましょう?」
「……え?」
クロードは自分の描いた線を見下ろした。
前世なら目盛りの数字を読めばよかった。
だが、その数字を何の量として決めるのか、ここではまだ考えていなかった。
形も使い方も思い浮かぶのに、作るための基準を用意できていない。
「……どうやって決めればいいんだろう」
クロードが呟くと、職人は急かさず、紙の上の線を指で示した。




