第34話『小さな願い』
第34話『小さな願い』
畑を眺めていたクロードは、背丈の低い作物に目を留めた。
隣ではミーニャが、籠の縁についた土を指で落としている。
「ねえ、ミーニャ。去年もあんなふうだった?」
「ううん。去年はもっと大きかったよ」
「どのくらい?」
「えっとね、これくらい!」
ミーニャは立ち上がり、手を胸のあたりまで上げてみせた。
そのまま少し考え、もう少し高くする。
「やっぱり、これくらいかな」
「ずいぶん違うね」
「うん。お父さんも、今年はあんまり採れないかもって」
さっきまで楽しそうに草の見分け方を教えてくれたミーニャが、畑に目を戻した。
「どうして育たないんだろう?」
「知らない。お父さんたちも色々やってるけど、なかなか大きくならないの」
「そうなんだ……」
クロードは土と葉を交互に眺めた。
水の量なのか、土なのか、虫なのか。
いくつも思いつくが、どれが原因かは分からない。
「たくさん採れなかったら、困る?」
「困るよ。お父さんとお母さんのお仕事だもん」
ミーニャは当然のように答えた。
「毎日ここに来てるの。わたしも、できることはお手伝いするんだ」
「だから石も草も拾ってたんだね」
「うん。でも、拾っても拾っても、またあるんだよ」
そう言ってミーニャは少し頬を膨らませた。
クロードは思わず笑いかけたが、畑を見ているうちに口を閉じた。
自分は作物の違いを調べたくて来た。
ミーニャは、ここで働く両親のことを心配している。
同じ畑でも、二人の目に映っているものは少し違っていた。
「それでね、毎日お願いしてるんだ」
「お願い?」
「神さまに。ちゃんと大きくなりますようにって」
ミーニャは両手を重ねて、畑を見つめた。
「元気に育ちますようにって。そうしたら、お父さんもお母さんも喜ぶでしょ?」
「うん」
クロードは、白い空間で会った女神イリシアを思い出した。
神が存在することは知っている。
けれど、この畑の作物がどうなるかまでは分からなかった。
「叶うといいね」
「うん!」
ミーニャは顔を上げ、いつもの調子で頷いた。
風が吹くと、大小さまざまな葉が一緒に揺れた。
二人はしばらく、それを眺めていた。
◇
「クロード、そろそろ戻りましょう」
畑の人との話を終えたエリスが、二人のところへやって来た。
付き添いの使用人も近くで待っている。
「もう帰るの?」
「ええ。畑の様子も見られたでしょう?」
「うん」
クロードは立ち上がり、服についた土を払った。
ミーニャも籠を持ち直す。
「わたし、もう少しお手伝いしてくるね」
「草を間違えないようにしないとね」
「それはクロードでしょ!」
ミーニャが笑い、クロードもつられて笑った。
「今日は教えてくれてありがとう」
「また分からなかったら聞いていいよ」
「うん。またね、ミーニャ」
「またね!」
ミーニャは籠を揺らしながら畑へ戻っていった。
クロードはエリスの隣を歩き出してから、一度振り返った。
畑の端には、まだ見てみたい石がいくつも残っている。
でも、今日は一つも持ち帰らなかった。
代わりに、草の見分け方と、あの畑を大切に思う女の子のことを知った。
またあの子と話してみたい。
そう思いながら、クロードは屋敷への道を歩いた。




