第33話『それは草じゃない』
第33話『それは草じゃない』
「ミーニャ」
名前を繰り返すと、女の子は頷き、クロードが持っている石へ目を向けた。
「それ、持って帰るの?」
「畑の人に聞いてからね」
「そんな石、どうするの?」
「家にある石と比べたいんだ」
「……変なの」
「そうかな?」
「だって、石だよ?」
「うん。でも、よく見ると違うんだよ」
クロードが細かな粒を指さしても、ミーニャは首を傾げる。
「ミーニャは何してたの?」
「お手伝い」
持ち上げた籠には、引き抜いた草と小さな石が入っていた。
「その石、見せてもらっていい?」
「いいけど、土だらけだよ」
ミーニャが渡してくれた石を、手元のものと並べてみる。
似た色なのに、片方の表面は少しざらついていた。
「ほら、こっちの方が粒が大きい気がする」
「……そう?」
「まだちゃんとは分からないけど」
「分からないのに、ずっと見てるの?」
「分からないから見てるんだ」
ミーニャは二つの石を順番に触ってから、首を傾げた。
「わたしには同じに見えるな」
「同じかもしれないね」
そう答えると、ミーニャはまた笑った。
そして籠を持ち直した。
「もう行くの?」
「草と石を拾わないと。いっぱいあるから」
「ぼくも手伝っていい?」
クロードは近くのエリスに頼み、畑の人にも確かめてもらった。
「少しだけならいいそうよ。作物を踏まないでね」
「うん!」
◇
ミーニャの後ろを歩き、クロードは小さな石を拾って籠へ入れた。
石の形が気になるたびに手が止まる。
ミーニャはもう次の草を抜いている。
「クロード、また見てる」
「だって、これも違うから」
「お手伝い、終わらないよ?」
「……そうだね」
クロードは石を籠へ入れて、今度は草にも目を向けた。
細い葉が何本か伸びたものを見つけ、根元へ手を伸ばす。
「それ、抜いちゃ駄目!」
ミーニャの声に驚いて手を止めた。
「え? 草じゃないの?」
「育ててるやつだよ!」
「こっちの草と似てるけど」
「全然違うよ。ほら、葉っぱの形も、茎のところも」
ミーニャは少し離れた場所の草と見比べて教えてくれた。
言われれば違うようにも見えるが、ぱっと見ただけでは迷ってしまう。
「よく分かるね」
「いつも見てるもん」
「ぼくには難しいな。教えてくれる?」
「いいよ!」
ミーニャは嬉しそうに頷いた。
それからは、クロードが手を出す前に確かめるようになった。
「こっちは抜いていい?」
「うん、それは草」
「じゃあ、こっちは?」
「それは駄目!」
二度も止められると、クロードは思わず笑ってしまった。
石なら見た目の違いを探したくなるのに、畑では自分が教わる側だ。
ミーニャが迷わず草を選ぶ手つきを、今度はじっくり眺めた。
◇
しばらくすると籠が重くなり、二人で畑の端の石置き場まで運んだ。
クロードも片側に手を添えたが、少し歩いただけで腕が疲れてきた。
「重いね」
「だから石拾いは大変なの」
積まれた石を見れば、まだ気になるものがいくつもある。
「これ、ちょっと見てもいい?」
「また? まだお手伝いの途中だよ」
「……うん」
ミーニャの言うことも分かる。
好きな石を選んで持ち帰るのと、畑から邪魔な石を拾い続けるのは違うのだ。
やがて一息つくことになり、二人は畑の端の日陰に腰を下ろした。
エリスは少し離れたところで畑の人と話し、付き添いの使用人も近くにいる。
ミーニャは籠を傍らに置き、土のついた手を眺めた。
クロードも自分の手を見た。
「ミーニャ、草のこと、すごく詳しいんだね」
「毎日見てるからね」
少し得意そうな返事に、クロードは笑った。
並んで畑を見渡すと、さっきまで同じように見えた葉が、少しだけ違って見えた。




