第31話『石の記録』
第31話『石の記録』
木箱の前で、クロードは二つの石を並べた。
色はよく似ているが、片方には白い粒が多く、もう片方には黒い粒が目立つ。
指で撫でると、ざらつきも少し違う気がした。
交互に持ち上げてみる。
「……重さは?」
どちらが重いのか、手の感覚だけでははっきりしない。
前世なら秤で量ればよかったが、今の部屋にはそんな道具はなかった。
それでも、屋敷のどこにもないとは限らない。
クロードは石を持ち、使用人に尋ねてみた。
◇
厨房で料理人に頼むと、相手は二つの石を見て首を傾げた。
「石の重さを量りたいのですか?」
「うん。どっちが重いか知りたいんだ」
「……少々お待ちください」
料理の邪魔をしないことを約束すると、使っていない古い天秤を見せてくれた。
クロードは教わりながら左右の皿へ石を一つずつ載せる。
ゆっくり片方が下がった。
「こっちの方が重い!」
けれど、その石はもう片方より少し大きい。
重い理由が大きさのせいなのか、石そのものの違いなのかは分からなかった。
質量だけでなく、体積も知りたい。
形の揃わない石なら、水に沈めたときの水位の変化を使えるはずだ。
「水を入れる容器、借りてもいい?」
「今度は何をなさるので?」
「石を沈めてみたい」
「……石を、ですか」
料理人は困った顔をしたものの、使わなくなった古い容器を用意してくれた。
水を入れて石をそっと沈めると、水面が上がる。
それは予想どおりだった。
ただ、容器には目盛りがない。
(どれだけ上がったか、これじゃ比べられないな)
細くて目盛りのある容器なら、もっと小さな違いも見られるだろう。
だが、そんなものをどこで手に入れればいいのか。
クロードが容器を見つめていると、エリスが厨房へ顔を出した。
「何をしているの、クロード?」
「二つの石が同じものか、調べてるんだ」
クロードは天秤で分かったことと、水面が上がったことを話した。
エリスは容器を覗き込んでから尋ねる。
「何があれば、もっと調べられるの?」
「細くて、横に線がある容器。どれくらい水が上がったか知りたい」
「そんなものがあるの?」
「……あったらいいなって」
思わず前世の道具を当たり前のように話しかけてしまった。
エリスはそれ以上尋ねず、少し考えてから微笑んだ。
「だったら、職人さんに作れるか聞いてみたら?」
「作ってもらえるの?」
「それは聞いてみないと分からないわ。今日はもう戻りましょうね」
「うん!」
自分だけで何とかしようとしていたが、作れる人に相談する方法もある。
クロードは料理人に礼を言い、借りた道具を返して部屋へ戻った。
◇
木箱の中には、まだ正体の分からない石が並んでいた。
《鉱物生成》は、十分に理解していない鉱物を作れない。
石一つについても分からないことばかりだが、それが少しも嫌ではなかった。
クロードは紙を取り出し、覚えた文字で色や形を書き留めてみた。
木箱に入れる石を選び直すと、もうほとんど隙間はなかった。
入りきらない石も特徴を記してから、庭へ返すことにした。
◇
その後、庭でまた気になる黒い石を見つけた。
持ち帰ろうとして、木箱がいっぱいなのを思い出す。
(新しいのを入れるなら、一つ返さないと)
部屋で石を並べ直し、庭でよく見かける灰色の石を選んだ。
返す前に、色と粒の様子、拾った場所を紙に書いておく。
文字は少し曲がったが、見れば思い出せるはずだ。
石を庭へ返してから、新しい黒い石を木箱へ収めた。
机に戻ったクロードは、書きかけの紙の一番上に『石の記録』と書いた。
まだ分からないことは、いくらでもある。
だからこそ、一つずつ確かめて残していこうと思った。




