第30話『集めたい石』
第30話『集めたい石』
イリアが生まれてから、屋敷の暮らしは少し賑やかになった。
妹が眠っている間、クロードがよく向かう場所は庭だった。
歩けるようになってからというもの、地面を眺めている時間がずいぶん増えている。
今日も小道の端で、土から半分だけ顔を出した石を見つけた。
指で周りの土を払うと、白っぽい表面が現れる。
拾ってみれば、片側は丸いのに、反対側には小さな角があった。
(こっち側だけ、ずいぶん形が違うな)
少し先には赤みを帯びた石も落ちていた。
どちらも庭で拾ったものだが、見た目はまるで違う。
前世では金属を扱う仕事をしていたものの、石を見ただけで何でも見分けられるわけではない。
まして、ここは別の世界だ。
知らないものを見つけると、つい手が伸びてしまう。
クロードは二つとも持って帰ることにした。
◇
部屋へ戻ると、クロードは石の土を落とし、乾かしてから机の端へ置いた。
そこには昨日までに拾った石も並んでいる。
黒っぽいもの、薄い茶色のもの、表面が少し光るもの。
拾ったときにはそれぞれ違うところが気になったのだ。
けれど、石を増やすたびに机の空いている場所が狭くなっていく。
棚にもいくつか置いていたが、クロード自身はあまり気にしていなかった。
「クロード、また石を拾ってきたの?」
声に振り向くと、エリスが部屋の入り口に立っていた。
イリアを寝かせてきたところらしい。
母は机の上を眺め、それから棚の石にも目を向けた。
「今日のは、ここが白くてね」
クロードが石を持ち上げると、エリスは近づいて覗き込んだ。
「あら、本当ね。でも、ずいぶん増えたわね」
「まだ違うのがあるんだよ」
「そうでしょうね。お庭は広いもの」
エリスは笑ったが、机の上をもう一度見回した。
石を集めることをやめなさいとは言わない。
ただ、これ以上増えては片づける場所がなくなってしまう。
「ちょっと待っていてね」
エリスが棚から持ってきたのは、小さな木箱だった。
蓋を開け、クロードの前へ置く。
「これに入る分だけにしましょうね」
「いっぱいになったら?」
「増やしません」
「でも新しい石があったら?」
「どれか一つを庭へ返しましょう」
クロードは箱を覗いた。
今ある石を全部入れるには、少し小さい気がする。
それに、明日もっと面白い石を見つけるかもしれない。
しばらく考えてから、母を見上げた。
「……大きい箱は?」
「駄目です」
即答だった。
思わず口を尖らせると、エリスがくすっと笑う。
「石が好きなのは分かっているわ。でも、お部屋中を石だらけにはできないでしょう?」
「……うん」
「どれを残すか、クロードが決めていいのよ」
自分で決めていいなら、少しは納得できる。
クロードは箱を受け取り、まず今日拾った白い石をそっと入れた。
続いて赤い石を入れると、もう底の半分近くが埋まってしまった。
大きな石を一つ入れれば、小さなものをいくつも諦めることになる。
今までそんなことは考えず、気になったら持ち帰っていた。
箱の横に残った石を見つめる。
どれも理由があって拾ったはずなのに、何がそんなに気になったのか、すぐには思い出せないものもある。
(どれを戻そうかな)
クロードは箱から二つの石を取り出した。
似ている気もするが、同じものだろうか。
ここで選んでしまうより、もう少しよく見てから決めたい。
エリスのくれた木箱の前で、クロードはしばらく石を眺めていた。




