第22話『違う手触り』
第22話『違う手触り』
エリスが床の敷物に置いたのは、丸みのある木の玩具だった。
角は丁寧に丸められ、小さな手が触れても引っかからないようにしてある。
クロードは目の前に現れたそれを、しばらく見つめた。
「今日はこれで遊んでみましょうか」
エリスが玩具を手の届く位置へ寄せてくれる。
クロードは腕を伸ばし、そっと指先を当てた。
これまでよく触っていたのは、寝台の布や母の服だ。
指で押せば柔らかく沈み、握ればくしゃりと形が変わる。
だが、目の前の玩具は違った。
押しても形が変わらない。
掌を動かすと、指先が表面をするりと滑った。
(……硬いな)
分かりきったことのはずなのに、思わずもう一度触ってしまう。
軽く手をぶつけると、こつ、と小さな音がした。
布の上を叩いたときとは、返ってくる音まで違う。
クロードは自分の手元を見つめ、今度は指で表面をなぞってみた。
見た目には滑らかでも、触れる場所によってわずかに感触が変わる。
(これ、どうやって仕上げたんだろう)
光哲だった頃も、完成した品を手にすると加工の手順が気になった。
金属なら、削ったのか、叩いたのか、磨いたのかと考えてしまう。
けれど今、手元にあるのは木だ。
細い模様は木目なのだろうが、どんな木なのかは分からない。
曲面を削り出したのか、何か別の方法で形を整えたのか。
この小さな手で触れただけでは、まだ答えは出せそうになかった。
「ふふ、気に入ったのね」
エリスは玩具を少し回し、別の面をクロードの方へ向けた。
すると、さっきまで見えなかった曲線と細い筋が目に入る。
クロードはそこへ手を伸ばした。
指先が木に触れ、今度は少し違う向きへ滑っていく。
(あれ、こっちはまた違うな)
同じ一つの玩具なのに、見る向きが変わるだけで気づくことが増える。
もう少しよく確かめたくて手を動かすと、玩具が敷物の上で傾いた。
エリスがすぐに受け止めて、元の位置へ戻してくれた。
「ふふ、そんなに慌てなくても逃げたりしないわよ」
そりゃそうだ。
そう思っても返事は「あぅ」としか出ない。
エリスは楽しそうに笑うと、玩具をまたそばへ置いてくれた。
クロードは片方の手で木の表面に触れ、もう片方で敷物を握ってみる。
こちらは柔らかく、指の間で形が変わる。
木の方は、いくら指を曲げてもそのままだ。
柔らかな布に触れたあとでは、木の硬さがいっそうはっきりと感じられた。
「そろそろおしまいにしましょうか」
エリスが玩具へ手を伸ばした途端、クロードの口から声が飛び出した。
「あー!」
もっと見たい。
まだ気になるところがある。
エリスは少し驚いた顔をして、それから頬を緩めた。
「そんなに好きだったの?」
「じゃあ、もう少しだけね」
玩具が再び敷物に置かれる。
クロードはほっとして、丸く整えられた端を指でなぞった。
前世なら何気なく手に取っていたものも、今はこんなに時間をかけて触っている。
それでも、少しも退屈ではなかった。
玩具の反対側には、まだ指先で確かめていない場所がある。
クロードはそこをじっと見つめ、木の表面へもう一度手を伸ばした。




