第14話『気になる金具』
第14話『気になる金具』
エリスが扉の取っ手に手を伸ばしたとき、クロードの視界で何かが鈍く光った。
扉に取り付けられた、小さな金属の持ち手だった。
エリスの手に半分隠れているのに、目が離せなくなる。
(あれ、どうやって作ったんだろう?)
取っ手はまっすぐではなく、緩やかに曲がっていた。
扉に接する部分には丸い板のようなものが見える。
何でもない日用品だが、形が気になり始めると、その先まで考えたくなる。
金属を叩いて曲げたのか、それとも型に流し込んで形を作ったのか。
取り付ける部分は、持ち手と一緒に作ったのだろうか。
前世で長く金属に関わっていたからこそ、完成品を見ると作るまでの手順を想像してしまう。
だが、遠目に眺めただけでは材質も加工方法も分からなかった。
そもそも、前世で知っている金属と同じものなのかさえ確かめられない。
似た形の金具なら前世でも見たことがあるが、同じように見えるものが同じ材料や作り方とは限らない。
小さな取っ手一つにも、使う人が握りやすい形や、扉に取り付けるための工夫があるのかもしれなかった。
(もう少し近くで見たいな)
エリスが取っ手を動かすと、扉が静かに開いた。
金具が視界の端へ流れていく。
クロードは慌ててそちらへ首を向けようとしたが、思った方向には動かない。
腕を伸ばしたつもりでも、手が小さく揺れただけだった。
「あー! あぅ!」
エリスが足を止め、クロードを覗き込んだ。
「あら、どうしたの?」
「あー!」
「何か気になるものがあった?」
クロードは答える代わりに、もう一度取っ手の方を見ようとした。
エリスはその視線を追い、扉へ顔を向ける。
「……これかしら?」
少し身体の向きを変えてくれたおかげで、取っ手が正面に見えるようになった。
さっきは母の手に隠れていた根元も、今ならよく見える。
曲がった持ち手は丸い部分につながり、そこから扉に固定されているらしい。
表面には明るく光るところと、少し暗く見えるところがあった。
磨き方が違うのか、使われているうちに変わったのか。
指でなぞって確かめたいが、今のクロードには届くはずもない。
(触れたら、どんな感触なんだろうな)
「ふふ、光っているのが面白いのね」
エリスは取っ手をもう一度ゆっくり動かしてみせた。
持ち手が傾き、扉がわずかに動く。
今度は金属そのものだけでなく、動かしたときにどこが動くのかも気になった。
見えている部分の奥には、どんな仕組みがあるのだろう。
何度でも見たいが、エリスがそっと手を離すと取っ手は元の位置に戻った。
「さあ、行きましょうね」
エリスに抱き直され、クロードは開いた扉を通り過ぎた。
金具はもう見えない。
それでも、先ほどの曲線や動きが頭の中に残っていた。
製鉄所の大きな設備も、仕事帰りに見つけた銅鍋も、気になればつい見入ってしまった。
それは赤子になった今も変わらないらしい。
(いつか、あれも自分の手で確かめてみたいな)
まだ歩けないし、手を伸ばしても好きなものには届かない。
けれど、見つけたものについて考えることならできる。
この世界には、ほかにどんな金属の道具があるのだろう。
エリスの腕の中で、クロードは次に見つけるものが少し楽しみになった。




