第12話『指一本から』
第12話『指一本から』
ガルディオの指先に灯った小さな炎が、頭から離れなかった。
寝台に横になったクロードは、天井を眺めながら何度もあの光景を思い返していた。
父は火を出す前に指を動かしていた。
寄せて、形を変えて、もう一度動かす。
順番があったように見えたが、細かなところまでは思い出せない。
(あの動きにも、何か意味があるんだろうな)
できることなら、もう一度見せてもらいたい。
だが、今はガルディオの姿もないし、呼ぼうにも名前をはっきり発音できない。
クロードは少し考えてから、自分の右手に目を向けた。
火を出す仕組みは分からないが、指を動かすだけなら試せるかもしれない。
まずは、あの大きな手のように動かしてみよう。
そう思って腕を上げると、手が顔の前を通り過ぎそうになった。
慌てて止めようとしたせいで、今度は肘まで動いてしまう。
どうにか視界に入った小さな手を見つめ、クロードは人差し指を曲げようとした。
すると、中指まで一緒に曲がった。
(……そっちまで動かなくていいんだけど)
一度手の力を抜き、今度は人差し指だけを意識する。
ところが、ぴくりと動いたのは親指だった。
思いどおりにならないのが悔しくて、口から声が漏れる。
「うぅ……」
前世では指一本を動かすのに、こんな苦労をした覚えはない。
もっとも、今の身体では腕を持ち上げるだけでも大仕事だ。
クロードは少し休んでから、もう一度右手を見た。
指を全部動かそうとするのではなく、まず一本だけ。
力を入れてみる。
今度もほかの指がついてきた。
そこで少し力を緩め、もう一度試す。
すると人差し指がほんのわずかに曲がり、中指はほとんど動かなかった。
(おっ、今のは!)
嬉しくなって同じことをしようとすると、今度は指がまとめて握り込まれてしまった。
どうやら、一度できたからといって、すぐ同じように動かせるわけではないらしい。
それでもクロードは、さっき確かに指一本が動いたのを見ていた。
もう一度試そうとしたところで、柔らかな声が聞こえた。
「クロード、起きていたのね」
エリスが寝台のそばに来て、懸命に動く小さな手を覗き込む。
「あら、お手々で遊んでいたの?」
「あぅ」
「ふふ、ずいぶん上手に動かすようになったわね」
いや、まだちっとも上手には動かせていない。
そう伝えたくても、エリスは嬉しそうにクロードの手を包んでいる。
指を一本ずつ優しく開いてもらうと、自分で力を入れたときとは違って簡単に広がった。
その手から指が一本差し出される。
「ほら、握れるかしら?」
触れた指を、クロードの手がきゅっと包み込んだ。
さっきは狙った指一本すら曲げられなかったのに、握るときには勝手に手が閉じる。
同じ手なのに、不思議なものだ。
「上手ね、クロード」
エリスは笑って、もう片方の手でクロードの頬を撫でた。
褒められるのは少し照れくさいが、悪い気はしない。
ガルディオの指の動きを真似できるようになるには、まだまだ時間がかかりそうだ。
それに、真似できたからといって火が出るのかも分からない。
それでも、さっきは一度だけ思った指が動いた。
まずは、もう一度あれをやってみたい。
クロードはエリスの指を握りながら、自分の小さな手をじっと見つめていた。




