その先へ
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
大学生編、いよいよ最終話です。
誤解、すれ違い、そして積み重ねてきたものが、ひとつの形になります。
この物語の「区切り」となる一話です。
どうか最後まで見届けていただけると嬉しいです。
そして――
この先へ繋がる物語も、もう少しだけ続きます。
その後――。
隆二は大学を自主退学した。
その理由は公にはなっていない。ただ、噂話などというものは、まるで最初から存在しなかったかのように、あるいは黒い霧が晴れるように、嘘のように消え失せた。
翠もまた、大学を去った。
居場所を失ったのか、それとも自ら逃げ出したのか。それを知る者はいない。
ただ、二人の足跡が誰の記憶からも薄れていくのを、俺は静かに見送っただけだ。
――そして、一年後。
張り詰めた空気が、会場を支配している。
新入社員代表として壇上に立つ俺の姿は、きっと誰の目にも硬いものに見えるだろう。逃げ場などどこにもない。だが、不思議と心は凪いでいた。
ああ、もう慣れてしまったのだな、と自嘲する。
「本日は――」
紡ぎ出した声は、予想以上に落ち着いていた。
迷いはない。あの頃の、出口のない迷路を彷徨っていた自分とは違う。誰がどう思おうと関係ない。自分の言葉で、自分の道を進む。ただそれだけだ。
スピーチを終え、拍手の中を静かに壇から降りる。
日常が、また一つ終わった。
帰り道。春の兆しを孕んだ柔らかな空気が、頬を撫でる。
人通りの少ない路地を一人で歩いていると、ふと、背後で硬質な靴音が止まった。
「本田司……立派なスピーチだったぞ」
耳に馴染んだ、しかし今は遠い響き。
足を止め、ゆっくりと振り向く。そこにいたのは――。
龍神葵。
変わらぬ冷たい眼差し。だが、その奥底に揺らぐ光は、かつてのものとは僅かに違って見えた。
「お前、ここに就職したのか」
問いは、俺の喉から勝手に零れ落ちた。違和感が胸を刺す。記憶の中の彼女なら、もっと上の、親会社にいるはずだったからだ。
葵は、ふっと小さく鼻で笑う。
「勘違いするな」
即答だった。彼女は視線を逸らし、どこか遠くを見るような目をする。
「父さんが言っただけだ。『まずは世間を見てこい』ってな」
一瞬の沈黙。彼女は付け加えるように、「……それだけだ」と小さく呟いた。だが、その語尾には、どこか割り切れない響きが残っている。
「そうか」
俺は、それ以上は聞かなかった。聞く必要もない。
僅かな空白が、二人の間に流れる。
「……で?」
俺は、軽口を叩くように切り出した。
「納得はしているのか?」
葵はわずかに目を細める。
「当然だ」
彼女は即座に言い放つ。「むしろ、願ったりだ」と。
それだけ言い捨てて、彼女は一歩、歩き出した。俺の横をすれ違いざま、彼女は小さく言葉をこぼす。
「……また、よろしくな」
足を止めることなく、彼女は去っていく。
俺は振り返らなかった。ただ、口元に僅かな笑みを浮かべる。
(……やっぱり、面倒なやつだ)
だが、悪くない。
そう思えた。
新しい日常が、ここからまた始まる。
――大学生編・完――
大学生編、ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございました。
ツカサの選択、そしてここまでの積み重ね――
少しでも何か感じていただけたなら嬉しいです。
ここで一区切りですが、物語はまだ続きます。
次は舞台を移し、社会人編へ。
環境が変わり、人も変わり、評価も変わる中で――
ツカサがどう進んでいくのか、引き続き見守っていただけると嬉しいです。
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これからもよろしくお願いします




