もう遅い
今回はツカサの“決断”の回です。
やり直したいと言われても。
都合よく戻れるほど、時間は甘くありません。
――もう遅い。
その一言に辿り着くまでの話です。
呼び止められたのは、放課後だった。
「……ツカサ」
聞き慣れた声に、ゆっくりと振り向く。
翠が立っていた。自信ありげな表情――ただ、その奥に、わずかな焦りが混じっている。
(……来ると思ってた)
胸の内で、静かに納得する。
「……何の用だ」
自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。
昔なら、こんなふうには話せなかっただろう。
「聞いたよ。内定、もらったんでしょ? 龍神系列の会社」
答えない。だが、それで十分らしい。
翠は満足げにうなずき、どこか優しく笑った。
「頑張ったんだね。私を取り戻すために」
一瞬、言葉の意味が遅れて届く。
「……は?」
間の抜けた声が出た。
(まだ、そう見えてるのか)
少しだけ驚いて、すぐにどうでもよくなる。
「ねえ、ツカサ。私たち、やり直さない?」
当然のように距離を詰めてくる。
「隆二ってさ、口ばっかりで……何も持ってないし。正直、失敗だったなって思ってる」
軽い口調。まるで雑談みたいに。
その言葉を聞きながら、ふと昔を思い出す。
あの頃の自分なら、きっとこの一言で揺れていた。
――でも、今は違う。
(もう無理だな)
静かに、線が引かれる。
「今ならさ、ツカサもちゃんと私に相応しい存在になったし」
翠は笑う。
「戻してあげてもいいわよ?」
数秒、何も言わずに見つめる。
その顔は、変わっていないはずなのに。
どこか遠くにあるものみたいに見えた。
(……くだらないな)
「……何言ってるんだ」
声は、自然と低くなる。
「だって、まだ私のこと忘れられないでしょ? 隆二を見返すために、ここまで頑張ったんでしょ?」
そこで、何かが完全に切り替わった。
怒りじゃない。悲しみでもない。
ただ、関心が消える。
(ああ、そういう話のままなんだな)
「……違うな」
短く言う。
「お前のためじゃない」
はっきりと、区切るように。
「最初から全部、自分のためだ」
それだけで、十分だった。
翠の表情がわずかに固まる。
その変化を見ても、何も感じない。
ただ、距離を取る。
「……それに」
一拍、置いて。
「誰だっけ、お前」
空気が止まる。
「……え?」
理解できない顔。
そのまま、言葉が続かない。
「そんな顔するなよ。もう終わった話だろ」
ツカサは、俺はもう振り返らないと翠に背を向ける。
足は自然に動いた。
「ま、待ってよツカサ!」
呼び止める声が背中に刺さる。
昔なら、振り返っていたかもしれない
(……変わってないな)
胸の奥で、静かに切り捨てる。
「ふざけないでよ!!」
叫び声が、廊下に響く。
けれど。
その声は、もう届かない。
足は止まらない。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
今回はタイトル通りの回になりました。
ツカサの変化、少しでも伝わっていたら嬉しいです。
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