抑えていた感情
異世界転移したら吸血鬼に監禁されました。
突然結論から申し上げて、失礼しました。怒涛の展開で私自身非常に混乱しているのでどうか許してください。
私は普通の高校生で放課後家に向かおうと学校から出て通学路の角を曲がりました。
そこに広がっていたのは森でした。振り返ると今まで来た道の面影などなく、気づけば森のど真ん中に私は立っていました。
で、話が長くなりそうなので、色々割愛しますが、人攫いにあい奴隷として競売にかけられ、私を競り落とした人物に連れていかれ、とある屋敷にぽいと置かれました。競り落とした人物には私はこれ以降会っていません。それから屋敷の主である男に部屋に監禁されるようになりました。
さて、これで理解できたでしょうか。
………理解できない。私は。
扉の向こう側には銀髪の吸血鬼がいた。
緊張で椿は体を固くし、ただ吸血鬼の赤い目を見返すことしかできなかった。
「…………。」
「…………。」
な、なんか全然動かないな。観察するような目で見られると、居心地が悪いんですけど……。
吸血鬼がふと動き、右足を出した。
「こないで!」
甲高い声が聞こえた。椿はすぐに誰の声か判別できなかったが、男が少し目を見開いてこちらを見ているのに気づいて、やっと自分が発した声であることがわかった。
それに気づくと同時に椿は自身の手が震えていることを認識した。
そっか……私は…………。
「あなたは誰なの?」
銀髪の吸血鬼は椿を静かに見ている。
「なんで私を監禁しているの?」
椿は吸血鬼の反応を待たずにさらに質問をする。
「ここはどこなの?」
今は冷静じゃない。椿は自分に語りかけた。
「なんで私はここに来てしまったの?」
落ち着いて。わからないことが多すぎるから、事実は事実と捉えて、考えなきゃ。
「ここはどういう世界なの?」
椿の口からどんどん疑問に思っていることが雪崩のようにでてくる。
声がどんどん裏返っていっている。自分の身体を、感情をコントロールできない。
だって、私はずっと――
「…………怖いっ!!わ、わかんない!きゅ、急に一人で知らない場所で知らない人がいて、どうすればいいの!!?何が正解なの??」
椿は気づけば、しゃくり上げて涙を流していた。
涙が絶え間なく流れ、椿は大きな声をあげて泣き続けた。椿がこの世界に来て初めて本当の感情を吐露した瞬間だった。
涙がどうしても止まらない。涙を止めようと手で拭うがそんなことなど関係なくとめどなく流れる。
ふと顔を上げた時に扉の向こう側に銀髪の吸血鬼がまだいることに気づいた。涙でにじんでいるため、吸血鬼の男がどのような表情をしていたのかはわからない。
しかし、椿はその男の姿を見て、ある感情が湧いてきた。
「…………なの」
椿が小さな声でなにかを呟いたのが聞こえたのか、吸血鬼がほんの少し椿の方へ上半身だけ近づけた。
「……なんなの!!!」
椿は気づけば吸血鬼に叫んでいた。
「部外者です……みたいな感じでそこにずっといるけど、あなたのせいで私は苦しんでんの!!」
椿はぎっと吸血鬼を睨む。
「学校行こうとしたら、気づいたらこんな場所に来るわ、言語もわかんないからどう質問すればいいかわかんないし、何が正解!?知らない部屋にいたら外に出たいと思うのが自然なことじゃない!??」
ベッドをボフボフと叩きながら椿は主張を続ける。
今の状況ほぼ詰んでる!命とかもうどうでもいい!死ぬ前に今まで思っていたことを全部ぶちまけるっ!!
「⟠ᚢᛖᚾ ᛞᛁ ᛏᛟᚱᚨ⸮」
「ちょ~とだけ静かに!私が今、しゃべっている!から!!」
椿の剣幕を見て吸血鬼がポカーンと口を開けた。
「そもそもあなたは誰ですか?名前を最初に名乗れ!……あっ、私の名前は朝倉椿と申します。高校2年生です。はい!あなたは!?」
椿は「はい、どうぞ」と言わんばかりに、手のひらを相手へ向けた。吸血鬼は質問に答えることなくその手を怪訝そうに見ている。
「……言葉の壁が厚い~!普通、異世界転移してもなぜか言語は通じますみたいなこと現実ではないの?シビアすぎ!進まないよ展開が!!」
女子高校生は頭を抱えてベッドでうんうん唸った。そして、急にはっとした表情をして顔を上げた。
「というかさ!!監禁したいなら部屋のカギ、閉めときなよ!!真剣に監禁しろ!!!」
椿は勢いよく立ち上がり、吸血鬼を押しのける勢いで扉に近づき、ドアノブをがちゃがちゃと動かしながら、銀髪の男に叫んだ。
男がふいに手を口に覆い、顔を伏せた。
「聞いてんの!??」
フッと男の口から声が漏れた。次第に喉を鳴らすように笑い声が聞こえてくる。
「わ、笑うな~!!」
椿はさらに怒りが沸き、声が裏返る。
その様子が面白かったのか、男はますます口を開けて笑い出した。
男がひとしきり笑ってから口角をまだ上げたまま部屋の外を手で示すようにした。
椿が男を見たまま戸惑っていると、男は椿から距離をとり、扉と逆側の窓に背を付けた。
「外に出ろってこと?」
椿は相手に確認するというより、自分で確認するためにつぶやいた。
椿がおそるおそる扉の外に出た。
男が満足そうにうなずく。
「…………っえ⁉」
椿が突然大きな声をだし、男が「ん?」というように首を傾げた。
「えっ?ま、待って!も、も、しかして。部屋の外に出てもよかったの!!?」
男が少し首をかしげたまま、頷いた。
「え~~~~~~!!」
そうだったんだ!いやでも、確かにこの部屋での監禁目的なら鍵がついているはずだよね。
椿は目と口を大きく開き、きょろきょろと周りを見た。
ふと男の方を見ると、男が口に手をおき、目元を笑わせながらこちらを見ていた。
「見てんじゃねーよ!」
つい、男をパンチする。
男は驚いた表情を一瞬し、愉快そうに声をあげて笑った。




