歪で異物な出会いは突然に-2
今日最後の授業が始まった。
7限目は世界史。
世界史は、日本史ほど苦手じゃない。けど、俺は既に眠気で限界だった。
最後の授業だからか、それとも昨日のライブの疲れがまだ残ってんのか分からないが、とにかく眠くて仕方が無い。
「今日は、古代インドの続きです」
教師が低い声で淡々と言った。
チョークが黒板にカツカツと当たる乾いた音が、教室に響く。大きめの手で板書を終えると、教師はこちらを振り返り、教科書を手に取った。
「では、教科書46ページを開いて下さい」
俺は教科書を開いた瞬間、文字がやけに遠く感じた。
見たことも無い片仮名だらけの文字の羅列を見て、思わず教科書を閉じたくなった。
……覚えられるか、こんなん。
「まずは、前回の復習ですが、紀元前6世期頃にはガンジス川中流域にコーサラ国が……」
教師の声は終始淡々としていて、感情の起伏がほとんど無い。それが、かえって静かな睡眠用BGMみたいで余計に眠気を誘う。
……やべえ、クソ眠い。
俺は何とか起きていようと、教科書の地図をノートに写した。もちろん、理解はしていないが寝ないためには手を動かすしか無い。
「当時、コーサラ国と抗争を繰り返していたのはマガダ国で……」
教師の声がぼんやりと聞こえる。……でも、俺はそんなのは二の次だった。
ペンを止めずに動かし、目が閉じそうになったらペン先を手の甲にぐりぐりと押し付ける。今の俺には、寝まいとするにはそれだけで精一杯だった。
それでも——。
ペンを握る手が、次第に重くなる。
勝手に、頭がこくりと下がってくる。
教師の声も、だんだんと遠のいていき、意識がぼやけていった。
俺は必死に瞬きを繰り返したが、瞼の重さにはどうしても逆らえなかった。
そして——。
いつの間にか視界が暗くなり、俺はとうとう寝落ちてしまった。
*
「…………さん、……立花さん?」
どこからか、低い声が聞こえてきた。
反射的に顔を上げると、教師がこちらを見ていた。
「起きてますか」
「……はい」
……自分でも分かるぐらい、説得力の無い返事だった。
教師は少しだけ間を置いてから、鋭い声で言った。
「では立花さん。マウリヤ朝の首都は?」
……は?
寝起きだったのもあって、頭が真っ白になった。
俺は慌てて教科書に目を落とし、ページを捲る。
……マウリヤ朝、マウリヤ朝……。
焦れば焦る程、どのページを見れば良いのか分からなくなる。ページのどこを見ても、同じ単語ばかりが並んでる気がした。
……てか、マウリヤ朝って何だよ。
——やばい、分からん。
俺が諦めかけた、その時だった。
「……パータリプトラ」
隣からこそっと囁く声が聞こえた。
思わず振り向くと、丸い眼鏡の男が教科書の“パータリプトラ”の文字を指差している。
「……パータリプトラ、です」
俺がそう言うと教師は頷いた。
「そうです。では、続きに戻りましょう」
それだけ言って、何事も無かったかのように授業が再開した。
……助かった。
一気に、手のひらが汗ばんだ。
隣の眼鏡の奴に目を移すと、そいつは真剣に板書を写している。
……まるで、俺を助けた事自体、無かったかのように。
……誰だ、コイツ。
顔も、名前も俺は知らない。
なのに——この時だけは、丸い眼鏡だけが、妙に記憶に引っ掛かった。
今更ですが、この時代は2008年なので懐かしの平成ですね。
つまり、高校2年生で早生まれの奏介は1992年(平成4年)生まれということになります。
奏介「誰だ今平成一桁ガチジジイって言った奴」
※今週は投稿頻度下がります。申し訳ありません!
(活動報告でもお伝えした通り、旅行に行くため)
再来週からはまた新しいお話をどんどん書いていくので、少しの間気長にお待ちいただけると嬉しいです。




