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業を鳴らす  作者: 希乃咲 空
1章―2008年〜―
5/22

黎明の音-2

 チャイムが鳴ると、待ちに待った放課後が訪れた。


「あー、疲れた~」

「今日の日本史、難しすぎだろ」

さっきまでの張り詰めた空気が嘘みたいに消え、教室には色んな喋り声が響いた。

 そして、みんな一斉に各々の行き先へ向かう。


 俺は教室の後ろに立てかけていたギターケースを引き寄せ、肩に掛けた。


「お前、これから部活?」

「そうなんだよ~」

「頑張れよ。じゃあまたな」

そんな声が飛び交う中、俺はお構いなく、誰とも話さずに学校を出た。



 校門を抜けると、肩の力がほんの少し抜けた。重たいギターを背負ってるはずなのに、なぜだか学校を抜けた途端に軽く感じる。

 いつの間にか足取りも軽くなり、気が付けば最寄り駅まで走って向かっていた。


 *


 電車に乗ること、約10分。俺は博多駅で降りた。


 ここの駅は改札を抜けると、いつも通り一気に賑やかになる。九州の中心地なだけあって構内は広く、人通りも多い。

 だが今は工事中で、あちこちに仮囲いが立ち、外では工事音が響いているせいか、どこか落ち着かない。


 それでも、俺はここに来るといつも不思議と気分が浮き立つ。

 俺は博多(ここ)で生まれ育った。だからなのか、見慣れた駅が姿を変えていくのは少し寂しいけれど、この駅も、この街も嫌いじゃない。


 俺は人波を搔き分け、筑紫口に向かった。


 *


 筑紫口を出て、暫く歩くと見慣れた看板が目に入った。

 繁華街から少し外れた所にある、小さな建物。——そう、ここは俺の行きつけのライブハウスだ。


 急な階段を一歩ずつ下り、分厚いドアを開けると、中からベースの音が聴こえた。

 低くて、腹に響く音。ここじゃないと、絶対に聴けない音だ。


 中は薄暗くて、少しだけ埃っぽい。古い箱のせいか、いつ来ても独特の臭いが鼻につく。

 俺はドアを閉め、ステージの方に向かった。


「お、来たか」


 声を掛けられて顔を上げると、ステージの脇でベースを構えている男が居た。

 彼の名前は山村(やまむら) 智也(ともや)。俺の父の友人で、この箱の常連だ。


「お疲れ様です」

俺がそう言うと、山村は軽く頷いた。

「早いな。学校終わったとこか?」

「はい」

俺はそう返事をしながら、ギターケースを下ろし、ファスナーを開けた。


 中から現れたのは、綺麗な紫色のエレキギター。何年か前に、初めて父に買って貰った自慢の“相棒”だ。


 俺はギターを肩に掛け、チューナーを取り付けた。

 ペグを少しずつ回すと、弦が僅かに軋む音がする。耳に意識を集中させて、Eの音を探した。


 ——ジャーン。


「お、良いじゃん」

俺が音を鳴らすと、山村が言った。

「ありがとうございます」


 山村に褒められる度、俺は少しだけ嬉しくなる。


 ——ジャジャジャーン。ジャジャジャ……。


 俺は得意なフレーズを軽く鳴らしてみた。


 ……うん、悪くない。今日も“相棒(コイツ)”は機嫌が良い。


「じゃあ、いつもの曲で合わせてみるか」

ウォーミングアップを終えると、山村が声を掛けてきた。


 そして、彼の合図で、俺は弦を鳴らした。


 俺のギターと山村のベースが重なり、分厚い一つの音となる。

 それが気持ち良くて、俺は無意識のうちに自然と顔が綻んできた。

■山村 智也

【年齢】40代前半

【職業】楽器屋店長、ベーシスト

【備考】彼が個人で経営している「山村楽器」は、奏介の行きつけの楽器屋。


山村楽器の名前の由来は、YAMA〇A+〇村楽器です()

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