此岸に咲く彼岸花一輪-2
——ピンポーン。
朝、玄関のインターホンで目が覚めた。
……誰だよ、こんな時間に。宅配便頼んだ覚えはねえし。
——ピンポーン。
……うるせえな。こっちはさっきまで寝てたんだよ。
……クソ眠いし、居留守使うか。
——ピポピポピポピポ。
……うるせえ!ぶっ殺すぞ!!
わーったよ、出りゃあ良いんだろ!?出りゃあ!……ったく、しゃーねーな。
スマホで時間を見ると、まだ10時だった。俺はいつも、この時間は寝ている。世間様にとってはとっくに“起きてる時間”だろうが、俺は違う。
渋々布団から出て、寝巻のまま玄関のドアを開ける。もちろん、髪は寝癖でボサボサだ。
俺は寝起きはいつも機嫌が悪い。しかも、昨日はライブがあったから、余計に疲れてる。
*
「げっ、大家さん!」
ドアを開けると、いつものだっせえ小豆色のエプロンが真っ先に目についた。俺より背丈は低いクセに、図太いガラガラ声で喋る婆さんだ。
「“げっ”とは失礼だねえ」
大家さんが言った。
「立花さん、家賃」
「うっ……」
——“家賃”。俺の嫌いな言葉TOP5に入る言葉だ。……朝っぱらから痛いとこ突きやがって。
「今月分だけじゃなくて先月分も滞納してるからね」
「すいません、ちょっと今は用意してなくて……」
「言い訳は良いから」
……やっぱり、この人だけには逆らえねえ。
「とりあえず、今月中。何とかして頂戴」
「……はい」
……反論できねえ。
良い歳して子供みたいで、情けない。
「それと立花さん、最近夜中うるさいってクレーム来てるよ。今週だけで3件」
「……えっ」
大家さんのじっとした視線が刺さった。
確かに俺は夜、ギターの練習をするが……それだろうか。それとも配信か?
……いずれにせよ、音は抑えてたつもりだったが、それでもダメだったのかよ。
「バンドマンだか何だか知らないけど、他の人に迷惑かけないでよ。ウチはボロアパートなんだからね」
「はい……すみません」
「じゃあ、また来るからね。それまでに家賃、用意しとくんだよ」
「はい」
俺が返事をすると、大家さんは帰っていった。
俺は部屋に戻り、二度寝しようと思った。が、完全に目が覚めてしまった。
……ったく、朝からめんどくせーんだよ。
……めんどくせー人だけど。それでも、こんな俺を住まわせてくれるんだよな。何故か。
傍から見りゃ、俺はピアスだらけで、髪は紫の“やべー奴”。部屋は荒れてるし、三十路過ぎても嫁どころか彼女すら居たことが無い。……30までナントカを貫いたら魔法使いになれるって言うけど、だったら俺はとっくに魔法使いだっつーの。
その上俺は“絶対に付き合ってはいけない3B”のバンドマンで、稼ぎは超少ない。おまけに昼夜逆転までしてる。そしてネットでは……いや、今はやめておくか。
俺はベランダに出て、煙草に火を点けた。こんな時間に吸うのは、久し振りだ。
「全く、何でこんな限界生活してんだか」
煙草を咥えたまま、空に語り掛けた。
俺がこんな生活をしてる理由——それは全部、俺の“自業自得”だって、俺自身が痛いほど知ってるクセに。
「——ふうっ」
煙を吐き出すと、ふと昔の記憶が蘇った。
——“自業自得”。
俺の人生は、この言葉から逃げられなかった。
……思えば、俺の“業”は——17年前から始まっていたんだ。
次回より、1章に突入します!
高校生の時のお話です。
”カルマ”と名乗る前の彼を、是非ご覧ください!
※次回は2月11日に掲載する予定です。




