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業を鳴らす  作者: 希乃咲 空
序章—2025年某日—
2/21

此岸に咲く彼岸花一輪-1

「……俺、こんなとこで何やってんだよ」


 *


 ライブが終わって楽屋のドアを閉めると、さっきまでの空間が嘘みたいに遠のいた。厚い壁の向こう側には、まだ僅かに人の気配が残ってるはずなのに、ここだけ切り離されたみたいに静かで、現実に引き戻されたような気分だ。


 俺はギターをケースに仕舞い、椅子に腰を下ろした。そして、テーブルに置いてあったタオルに顔を埋めた。


 俺の名前は立花(たちばな) 奏介(そうすけ)。バンドマンだ。「カルマ」って名義で、ギターを弾いている。

 少し前まではバンドに居たが、今は訳あって一人だ。


 ……“少し前”つっても、もうとっくに過去の事だけどよ。


「——はあっ」


 タオルを外すと、鼻の奥に汗と埃の臭いが残った。

 壁に立てかけたギターケースに目をやると、思わず溜息が出た。


 ……今日のライブも、動員は少なかった。


 クソちっせえ箱なのに、フロアはスカスカ。客の数なんて、わざわざ数えなくても分かった。

 それでも俺は手を抜いたつもりは無えし——抜ける訳が無い。


 ——なのに、何かが足りなかった。


 もちろん、動員が足りねえのは分かってる。

 けど、それだけじゃない。

 歓声や拍手の大きさでもない。セトリの曲数でもない。数字じゃない“何か”が、確実に欠けていた。


 全力で音を出したのに、どこか届いてない感覚が残った。どんなに爆音で、どんなに激しく掻き鳴らしても——どこか寂しく聴こえた。


「……クソ」

座ったまま項垂れると、自分の手元が目に入った。紫のマニキュアが、一本だけ剥げていた。


「……俺、こんなとこで何やってんだよ」


 狭い楽屋に、独り言がやけに大きく響いた。


 *


「カルマさん、準備できたら撮影の方——」

俺がぼうっとしてると、突然マネージャーが楽屋に顔を出してきた。


 ——撮影?……ああ、Xに上げるやつか。


「……はいよ」

俺は腰を上げ、衣装と三つ編みのエクステを直してマネージャーに着いて行った。


 指示された椅子に座り、キメ顔を作って、写真を撮られる。

 1枚で終わらず、何枚も撮られ続けるのはもう慣れっこだ。


 ——パシャ。パシャ。


 ……シャッターが切られる度に、俺の意識は少しずつ別の所へ行った。


 東京の端っこで、“売れないギタリスト”やってる俺。

 売れないなら辞めれば、って言われたことも一度や二度じゃない。

 でも、音楽以外に取り柄が無くて、気付けばここまで来ちまった。


 ……ホント、何やってんだか。


 自分でも呆れちまうし、傍から見ればダセえに決まってる。


 ——それでも。

 俺はギターだけはどうしても手放せなかったんだ。

ご覧いただきありがとうございます!

こちらの後書きでは、登場人物のプロフィールや裏設定、作者のコメントなど、自由に書いていく予定です。

作品も、後書きも一緒に楽しんでいただけると幸いです。


また、創作の励みとなりますので、ブックマーク、高評価、感想、リアクション等お待ちしております!!


どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
ライブ後の楽屋の静寂、剥げたマニキュア、そして「何やってんだよ」という自問。 奏介の孤独な独白が、グッときますね。 音楽以外に取り柄がないと言い切り、それでもギターを手放せない彼の思い。 この情熱…
『売れない音と、ほどけきらない過去。彼岸花の気配が、静かに人生へ差し込んでくる。』 序盤から、夢を追いながらもどこか満たされないバンドマンの空気がしっかり出ていて惹かれました。ライブ後の虚しさや、家…
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