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第三回戦 至福の血塊


 花形対俺・小倉対如月という形式が成り立った今、完全に向こうは異能バトルが始まっていた。


 率直に言うと、白熱した能力バトル。めっちゃかっこよくね?


 小倉から繰り出されるやむことなく発射される糸の攻撃を如月は次々と氷漬けにして防御していく。さらには氷剣を造り出して、なんとか小倉に攻撃を当てようと動き続けている。


 小倉も大量の糸を固めた盾を造り出すことで、自身を守るのも完ぺきだった。


 司会の巧みな解説も入り、観客の熱はとどまることなく上昇している。


 で、俺たちの方なんだけどな……。


 じみーに闘ってるんですわ。一応な。


 いやまあ、見た目は自傷している花形と一人で苦痛の言葉を吐き続けている俺だから、見ててまったく面白くないってのもわかってるんだけどな。


 俺こんなに頑張ってるのに誰も見ていないってひどすぎだろ……。


 作戦名『黒崎翔太、どこまで耐えられるかな?』じゃねえんだよ。


「うふふふ、伝わっているわよねぇ……?」


 花形は全身から血を流しているにも関わらず、それでもなお笑いながら俺に話しかけてくる。


「げほっ、ぁあ伝わってるぜ……」


 もはやかすれた声しか出ない。俺の方は怪我していないと言っても、ありえないほどの激痛が全身に走っている。それは奴も全く同じのはずだ。だというのに、どうしてそんな余裕でいられるんだよ……!?


 ナイフで切り刻まれた個所をさらに切り刻んでいく。傷が治るなんてことはないはずだ。


 もはや自傷しすぎて痛みを感じなくなっているのか? それともこの状況に慣れすぎているのか?


 どっちにしろ花形が異常ってことだ。常人ならこんな痛み耐えられるはずがないんだ。かくいう俺ももう意識が飛びそうなほどダメージをもらっているわけだ。


「これほど共感してくれたのはあなたが初めてよぉ……。みんなすぐに消えていったの。ぐすん」


「あ……? いったい何の話を……」


「嬉しいのよ。私の気持ちをここまで『共有(シェアリング)』してくれたの、ああ、嬉しいわぁ」


 花形は涙を流していた。


 体を傷つけるために握っていた糸の束はどこかへ投げられたのか、既に手ぶらの状態だった。


 自分を傷つけて笑っていた花形はどこへ行ったのか。そう思うくらいに今度は別人になっていた。身を案じるように自分を抱いて、血と混ざった涙が顔面をくしゃくしゃにしている。


 どうなってんだ、いったい。


 そんな感情しか湧いてこない。情緒不安定なのか、って突っ込みをすることも忘れて、敵を心配してしまう。


 何をやっているんだ俺は。これが敵の策だとしたら思うつぼじゃないか。


 困惑する俺をよそに、花形は膝をついて崩れていく。ゆっくりとその体を地面に沈ませていく。


 血の海に体を納めるかのように、当たり前の結果として花形は倒れた。


「おい、え……」


 声をかけてみても、返事は返ってこない。最悪な表現だが、もはや屍のようにぴくりともしなかった。


 おいおい、こんな終わり方あるかよ。俺の方が後味悪いじゃねぇか。花形だってこんな終わり方のぞんでねぇだろ!


「起きろぉぉ!! 花形ぁ!!」


 花形が倒れたのを確認したのか、小倉が物凄い形相で叫んだのだ。


 そして如月との闘いをも放り出して、一目散に花形のもとへと駆けつけた。


()()()()()()() ()()()()()()()()


 ん、寝るな……? 寝るなって言ったか? 


「意識を持て! またもってかれたら今度こそ死ぬぞ!」


「……」


 だが、いくら小倉が花形に呼び掛けても沈黙がかえってくるだけだった。


 何が起きているのか。展開にまったくついていけていない俺たちを置いて、小倉は花形に語り掛けている。一旦、戦闘が中断したことで如月も俺の方に近づいてきていた。


「何が起きてるの?」


「全然わからねぇ。けど花形は死んでないよな?」


「ほんとに死んでたら試合が終わってるわよ」


「え。……それってどっちの勝ち?」


「人命損傷で翔太くんが強制敗北ね」


「なんだよそれ!」


 まさかの俺が退場とは……。おお、花形が生きていてくれて本当によかったぜ。


 そうしているうちに一度は倒れたはずの花形がゆっくりと立ち上がった。支えている小倉は心配そうに見ているが、花形はまだ口を開かない。


 そして。


 そして、花形はいつのまにか手にしていた鋭く束になった糸で自分の胸をぶっ刺した。


 当然鮮血が飛び出す。勢いは止まらず、刺した箇所から出る血液で再び地面に血の海を作った。


 誰もがその光景に目を奪われただろう。


 だけれど、俺だけはその光景を最後まで見ることはできなかった。


 その光景を見る前に花形の目を見ていた。そしてこみあげる激痛と腹の奥から湧いてきた血を吐き出すようにして倒れた。


 痛みだけがフィードバックするはずなのに、俺までもが血を吐いた。


 なぜかなんて考えるまでもない。


 あいつの、花形の目が吐いた血と同じ色をしていたからだ。


 俺は記憶ごとゆっくりと地面に沈んでいった。



 

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