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第三回戦 蛙の鳴き声


 花形が血を流しすぎてふらついていたことで、それを案じたのか小倉は俺たちから離れて敵地へと戻っていった。


「もっと糸をぉぉ、糸をちょうだあい!」


「さすがに多すぎだ。俺の攻撃にも使うんだから、自重しろ花形」


 小倉はそういいつつも、花形が要求した分の糸を己の右手から延ばしてぷつんと切った。


 くそ、あの糸はどんだけでも延びるのか?手の先から延ばしているのが見えたが、終わりがないように思えるな。


 俺や如月のような能力と違って制限がないのか?


 俺は体力に依存するし、如月も発動できる氷の量に制限があるとか言っていた気がする。


 字のごとく延々と延び続ける小倉の糸は右手で引っ張って一度は切れたにもかかわらず、その先は袖口から垂れていた。


 正直言って俺の異能よりも利便性がある分、かなり厄介な能力な気がする。


 武器を生成するだけでごっそり体力が持っていかれる『具現化オーバーキル』よりも、絶対強いだろ。俺もあっちの異能がよかったんですけど。ほんとこの能力くれたやつ許せねぇわ。


 そんなふうに愚痴を叩けるくらいには、先ほど負ったダメージが和らいでいるようだった。まだ全力で闘えるほどではないが、贅沢なんて言ってはいられないのだから。


 ふらつきながらもなんとか立ち上がることができた。


 今なら異能を使ってあいつらに攻撃することもできる。少ない体力だが二人のうちの片方をステージから落とす武器くらいは生成できるはずだ。


「異能『具現化オーバーキル』はつどぉ……っ!?」


 詠唱しようと思ったのだが、後ろから思いっきり襟を引っ張られたせいで潰された蛙のような声が出てしまった。


「あんた、バカじゃないの!? あんたの能力発動させたら間違いなく花形の攻撃がくるわよ」


 ごほっ、むせて出てはいけないものが出るかと思ったぜ……。


 っていうか、なんで俺が攻撃したらダメなんだよ。あいつらが攻撃してこない今がチャンスに決まってるじゃないか。


 そう思って如月の真意を視線で問うと、


「あいつらは最初から『具現化オーバーキル』を警戒してるのよ。だから『共有シェアリング』で体力を削りに来たのよ」


 なるほど。言われてみるとその通りだった。感心したあまり、手を拳で打つというポーズまでしてしまった。


 ふっ、やはり最初から俺を警戒していたのか。狙われる男は大変だぜ。


「じゃあ、どうやって勝つんだよ?」


 今はあっちからの攻撃がないとしても、俺たちも攻撃できないんじゃあ試合が動かないじゃないか。決着がつかないと、どうなるんだっけ? 大輝から聞いとけばよかったぜ。


 敵に聞こえないように配慮して小声で如月に質問したせいか、同じように如月も小声で返してきた。


 小声で会話をするということは必然的に耳元に口を持っていくわけで、吐息が耳にかかってくすぐったい思いをしてしまった。


「狙い目は小倉のほうかしらね。あたしの『凍結ミューデル』ならたぶんあの糸を凍らすことができると思うわ。ただ……」


 如月は途中で言葉を切ってしまう。


 なんだよ、作戦があるなら早く聞かせてほしいんだが。この状況を打開できるなら俺はなんだってやれる……とは言い切れないが、尽力する気概は見せれるぞ。


 再び視線を送って、言葉の先を促した。


「ただ、厄介なのが花形のほうね。『共有シェアリング』の発動条件がわからない以上はあたしも動けないもの。だがら、この試合のキーは翔太くんよ」


 は? 俺が試合の鍵ってどういうことだよ。花形の能力は今は俺にかかっているんだから、如月は全力で小倉を倒せばいいんじゃないのか?


 そんなことを如月に言ったのだが、返ってきた答えは別のベクトルでやばいものだった。


「だからその能力があたしにかからないように、翔太くんが花形の気を引き続けるのよ」


「えっと、つまりそれって……」


 なんだか嫌な予感しかしないんだが……。


「挑発でも告白でもいいから気を引いて、ダメージを受け続けてほしいのよ」


 やっぱりかよ! 俺がダメージを受けることで如月は無傷で小倉と闘えるのはわかるけど! 痛いのは俺だけじゃないか。最初に俺が花形に目をつけられたとしても、理不尽すぎないか?


「い、いや! それだと一対一になるじゃねえか。せっかくの決闘ルールが……」


「この大会に一対一で闘ってはいけないっていうルールはないわよ?」


 知ってるわ! どうにかして俺が一人で苦しまない方法を考えて無理やり出した言い訳だよ!


 くそ、……ほかに何か方法はないのか? 例えば敵が無条件で降伏してくれる道具とか……。そんなもの生成したら俺の体力全部消費しそうだな。っていうか、そんなものの造り方知らないから生成できないんだけどな。


 そうしているうちに小倉と花形の準備が整ったのか、小倉の方が近づいてきた。


「くっ、来るわよ! 花形は任せたわ!」


 そう言って如月は『凍結ミューデル』を発動させて小倉の方へと走り出した。


「ぁぁあ、伝わらないと!もっと!もっと!もっとおぉ!」


 如月を待ち受ける小倉の後方から狂ったような声が響いてきた。


 

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