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第三回戦 交戦


 未だ発狂に似た声を出し続ける花形を置いて、試合開始のベル音が響く。


「さあ、行くわよ」


 俺の隣で頼もしい言葉が発せられる。如月はすでに戦闘状態に入っていた。彼女の能力である『凍結ミューデル』を展開し終わっていて、花形と小倉がいつ攻めてきてもいいようにと構えをとった。


 俺も早く準備しなくてはな。いつまでもぼうっと突っ立っているわけにもいかない。


 右手に意識を集中させて、『具現化オーバーキル』を発現させようと呪文を唱えようとした時だった。


「いっ……、なんだ……!?」


 突然の右肩の痛みに思わず、異能を発現させる前に地面に膝をついてしまった。


 敵の攻撃か!? まだ相手は何もしていないはずだ。それとも俺が気付かないうちに攻撃をくらったってのか?


「うぐっ……、がはっ……」


 続けて腹部への激しい痛み。とどめに左足の腿にまで痛みを感じたことで、体勢を崩してしまった俺はステージの上に倒れこんでしまった。


「翔太くんっ! 大丈夫!?」


 心配した如月は慌てて俺の方へと駆け寄り、俺たちを包みこむようにして氷壁を展開させた。


 とりあえず防御を固めたが、それでも俺が攻撃を受けた箇所は未だに痛みを訴え続けている。


 くそっ。いったい何が起きて……。


 そう思ってそれらの部分を確認したのだが、不思議なことに気づいてしまった。あれだけの痛みを感じたはずが、一滴の血も流れていなかったのだ。外傷がないどころか、内出血のあとすらなかった。


「何があったの? あいつらの攻撃?」


「わからん……。だが見えなかったのは事実だ」


 俺たちが防御を固めたことで、敵も攻撃を中断したのか、さっきまで感じていた痛みは少し経つと消えていた。


「うふふふふふふ。うふふふ、ぅフフ。ふはぁ」


 まだ立ち上がれていない俺の方を見て、花形がにやりとした笑みを浮かべていた。


 痛みで少し視界が揺らいでいるが、それでも意地に近い根性で花形を睨み返す。


「なぁんだ、ちゃんと()()()()()()()()()()


 意味深な言葉を吐いて、なぜか嬉しそうに笑う花形。


 なんだ、伝わっているって。どういう意味なんだ……?


 思考を巡らせても、敵の異能だということしか思いつかない。どういう論理で俺を攻撃しているのかがわからないのだ。見えない何かが俺に攻撃しているとしか思えなかった。


 そんな俺の苦戦している心情を知ってか知らずしてか、飄々とした態度で小倉が語り始めた。


「ずいぶんと焦っているようだな。このバカ女の能力を知らないのか?」


 俺を攻撃していたのは花形の異能だったか……。確か、司会は『共有シェアリング』と言っていたっけ?何を共有する異能なのか、わからないが……。


 自分たちが優位な立場にあると確信してか、調子に乗った小倉は俺の欲していた情報をぺらぺらと語ってくれた。


「バカ女の『共有シェアリング』は指定された個人に痛覚を反転させる能力だ。簡単に言うならば、今はあいつの受けたダメージがお前に共有されているということだ」


 そう言って小倉は花形がいる方向を指さした。


 その誘導につられて、思わず俺も見てしまった。


 そこには、全身から血を流している花形がたっていた。左肩からは特に酷い流血で、腹部からも血を流しているのか、服が真っ赤に染まっていた。そして、右足も怪我をしているらしく、引きずるようにして立っている。


 まさにギリギリの状態だった。


「ふふふふっふ、ふははは、ふへへへへ……。あぁ、つたわっているわぁ」


「「なっ!!」」


 その衝撃的な姿を見て俺と如月の声が重なる。しかし花形のそんな姿を見慣れているのか、小倉は眉一つ動かさずに話し続ける。


「血は流しているが、その痛みは今お前に共有されている。この意味が分かるか?」


「……」


 まさか、あいつ……。


 察した俺の顔を見て小倉は頷いた。


「そうだ、アイツは自分で自分を切りつけて血を流している。俺の能力である糸を使ってな」


 そう言って小倉は自身の右手の先から延びている糸をひらひらと俺たちに見せつけた。


「これ以上苦しみたくなかったら、早めの投降を勧めるぞ」


 小倉が右手を思いっきり振りおろした。


 すると同時に、如月が発動させていた氷壁がガッシャーンという盛大な音を立てて崩れてしまった。


「なっ、アタシの氷壁がっ!」


 俺も何回か練習で如月の氷壁を剣で破壊したことはあったが、こんなふうに一度の攻撃で破ったことはなかった。


 如月も同様に壊されることはないと確信していたのか、破壊されて地面に散らかった氷の残骸を驚愕した表情で見つめている。


「いくら六魔といえど、無敵であるわけではない。固めた防御も脆くなっている一点を叩けば壊れる」


「確かに、アタシの氷壁は正面からの攻撃には強いけど、上からの攻撃は想定してなかったわ……。なかなかやるわね」


 如月はすぐに落ち着きを取り戻したのか、敵を称賛して余裕な笑みを浮かべて見せた。


 さすが六魔だな。これぐらいではまだまだ動じないってわけか。


 いやー、俺はめっちゃくちゃビビったんだけどなぁ。


 今だって怖くて、如月の後ろに隠れているんだもの。


 ていうか、花形の「共有(シェアリング)」もそうだったが、小倉の「延糸(フィル)」も見えない攻撃とかずるくないか。


 おそらく糸を操る能力だと思うんだが、それでも氷を破壊するだけの威力があるとかヤバいだろ。人体でも貫かれたら一溜りもないぞ。ちょっとは手加減しろください。


「いいぞ、如月!その調子で頑張って……」


 俺が後方から支援する、と言おうとしたら如月は小声で俺に被せてきた。


「バカ言わないでよ! アタシだって、怖いわよ。氷壁が壊されるとか想定外なんだから……」


 おいおい、大丈夫なのかよ……。涙目じゃねぇか。


 若干の焦りを感じている俺たちに対して、小倉は不敵な笑みを浮かべた。


「悪いけど遠慮なく勝たせてもらう。行くぞ花形」


「ああぁー! 伝わっているわああぁー!!!」


 会話が成り立っているのかわからない状態で、彼らは攻撃を仕掛けてきた。





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