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第三回戦 初陣

少し長めです。


 俺と如月が舞台へと踏み出した瞬間、空間が揺れるくらいの拍手が巻き起こった。


 そして司会の声が飛んでくる。


「さあ、第三回戦が始まりましたぁ。今回は大会の目玉でもある六魔が登場しています! 第四位の如月沙綾選手が参加しています! これは凄い試合になりそうです!」


 そうか、これだけ観客がざわついているのは如月に注目しているせいか。


 六魔という地位についていると、やっぱりほかの生徒から目をつけられてしまうのだろう。


 その中には憧れや尊敬といったポジティブなものだけでなく、嫉妬や嫌悪のようなネガティブなものも当然ある。それらのプレッシャーに耐えてなお、期待に応えるかのように結果を出さなくてはならないのだろう。


 大勢の観客の前で闘うだけで緊張している俺に耐えられるだろうか。いや、無理かもしれない。今だって足が震え出しそうなくらいだ。


 六魔は選ばれた人間にしかなれない。


 そう思ってしまった。


「しかぁーし、注目すべき選手は六魔だけではありません! その如月選手と組むのは黒崎選手です。序列こそ冴えませんが、彼の異能は少し変わっていますからねぇ」


 少し気分が沈んでいたところに、俺の紹介が聞こえてきた。


 俺の『具現化オーバーキル』が珍しいということをどうやら観客ギャラリーに伝えているようだった。かつて最強と謳われた能力だとか、なんだとか。


 まあ実際のところはそんな期待されても、能力が半分に限定されているために応えられないんだけどな。


 だが、注目されるのは恥ずかしいと感じる以上に、なんだか嬉しかった。


 皆が俺を一人の人間だと認めてくれているようで、嬉しかった。


 応援されているという事実があるだけで、なんだか闘える気がした。


「そして彼らを待ち受けるのは、今大会のダークホースと言われている二人です! 『共有シェアリング』の花形美紀子(はながたみきこ)選手、『延糸フィル』の小倉一平(おぐらいっぺい)選手です。こちらも能力が特殊ですから、見逃せませんねぇ」


 俺たちの紹介の後で、闘う相手の異能と名前が紹介されていたのだが、それを聞いている余裕はなかった。


 なぜかというと、花形と小倉は喧嘩をしていたからだ。喧嘩と言っても、互いにそっぽを向きあって悪口を言い合っているだけだが。


 これから闘うって時に喧嘩なんてしてて大丈夫か?なんて思ったが、相手の心配をしているほどこちらが有利なわけではない。これはラッキーだ。


 そう思って如月の傍まで寄って、声をかけた。


「相手が不和状態なのはこっちにとって幸運じゃないか?これだと俺たちの方がまだ連携をとれそうだろ。あんまり俺の暴走とか心配しなくてもよさそうだな?」


 自分の緊張を騙すためにも、努めて明るい声で調子を整える。


 だが如月の方はそうでもないようだった。


「あの二人は試合会場にいた時からもめてるらしいわよ。あれだけ仲が悪そうなのにどうしてペアをくんでいるのかしらね……。なにか裏がありそうな感じもするけど、実力があるのは確かだそうよ」


 そう言うと、如月は司会がいる方を指さした。


 花形、と呼ばれた腰までありそうな長い黒髪の女子生徒が司会に詳しく紹介されていた。どうやらあの人は序列が結構高いことで名が知られているらしい。三十一位だと司会が褒めそやしていた。


 三十台か……。如月たちのような六魔ほどではないにしても、相当の使い手のはずだ。能力がそれほど強くなくても、場数を踏んだ人間ほど戦闘がうまいのは言わずもがなだ。


 紹介が終わったのか、会場は俺たちの戦闘を今か今かと待ち続けて、その空気は俺たちにも伝わってきた。ごくりとのどがなり、いつでも闘えるようにと、身体を準備していく。


 だが、その空気をぶち破るように、唐突に相手チームが話しかけてきた。


「ねぇ、そこのあなた……」


 花形がどうやら俺に向かって呼び掛けているらしかった。


 なんだっていうんだ。これから試合だっていうのに……。まさかこっちのペースを乱しに来ているのか?


「黒崎くん、だっけ? ……すごくかっこいいと思うの。私が組んでる小倉よりずっとかっこいいわ……」


「は……?」


 なぜだか敵から賛辞を受けてしまった。


「なんていうのかしらね……、そうだわ! これは恋なのよ、きっと。恋よ、恋に違いないわ!」


 花形は頬に手を当てて、上気した顔でそんなことを言った。


 狂気に染まった言葉を繰り返して、ただただ俺に一目ぼれしたという旨を伝えてきた。


 え、……は? まったく意味が分からないんだが。


 いや、一目ぼれする人がいるのはわかるんだが、それ以外の部分が全く理解できなかった。というか、ここまで一方的に愛情を伝えられると、気持ち悪いと感じた。


 今、敵に言うことかよ。


 状況を考えろよ。


 いや、試合が終わったらオーケーだと言うつもりもないんだけどな。


 普段なら女子に好きだと言われたら舞い上がってしまいそうだが、こんな時にこんな奴から言われても、嬉しいなどという感情は微塵も起こらなかった。


 完全にペースを乱されてしまった俺に、もう一人の小倉という男子生徒が声をかけてくる。


「おい、黒崎とやら。そこのバカ女に目をつけられたならあきらめるんだな。()()()()()()()()()()()()()()()()


 小倉はつまらなそうに言葉を吐き捨てた。


「あぁ、最高よ……。一番愛してるわ……」


 花形の方は未だにうっとりとした表情で、ぶつぶつと呟き続けている。


 クソ、なんか気持ち悪いな……。


「花形、だっけか? なんかそういうのやめてくれ。今は試合に集中しろよ」


 軽く忠告にとどめて会話を流すつもりでいたのだが、俺の言葉を聞いた途端に花形の態度は急変した。


「あ?あぁ……、ぁあ、あああああ!!?」


 まるで絶望にひしがれたかのような声を上げて、わなわなと震え出した。そして俺の方をきっと睨みつけた。


「なんで……、なんで理解してくれないの!? 私は……私はこんなにもあなたのことが好きなのにぃぃ!! 愛しているのよ? 一目ぼれの何がいけないの!? どうして私の気持ちにこたえてくれないの? なぜ? なぜ? なぜ? なんでなのよ!?私はあなたの一番であるはずよ!? あなたのためなら何でもできる! なんでも尽くせる! パートナーになって決闘だって……」


 怒りと悲しみを喚き散らし、花形は鬼の形相で疑問を繰り返す。


 なんだよ、こいつ……。意味が分からん。


 愛だの恋だの騒いでいたと思ったら、今度はメンヘラに化けるのかよ。気持ち悪いを通り越して、もはや怖いという感情しかないぞ。


「お前の気持ちはしらねぇし、それに俺と決闘で参加するパートナーは如月だけだ」


 はっきり断っておかなくてはこういうタイプはいつまでも付け上がりそうなので、ここで花形の思いを断裁してやる。ついでに如月に怒りの矛先が行くかもしれないと、クズ的発想から名前を出してやった。


 だが、そんな俺の策もむなしく、釣れたのは花形ではなく。


「パ、パートナーはあたしだけ……、そ、それって……」


「どぼしでぇぇ、なんで伝わってぐれないのぉぉぉ!? 私の能力で伝わるはずなのにぃぃ!」


 二人の反応がそれぞれどちらなのかなんて説明しなくてもわかるだろ?


「はあ……」


 重い溜息がこぼれる。


 まったく……。試合が始まる前からこんな調子かよ……。


 完全にペースを乱されてしまった。


 こうして俺と如月の初陣は開幕したのである。






次話は戦闘シーン入ります!

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