もう一人の俺
* *
「おい! 翔太大丈夫なのか!?」
誰かが近づいてきて俺の体に触ろうとする。クソッ、汚い手で触るんじゃねぇ。
そう思って手につかんでいた『皇金の鉄槌』でソイツをぶん殴ってやった。ソイツは一瞬にして壁の向こうまで飛んで行った。っは、ざまあみやがれ。
「大輝くん!!」
「雨坂ぁ!!」
あ? 声のした方を見ると二人の女が飛んで行った男の方を見て悲鳴を上げていた。やかましいな。アイツらもつぶすか。
ははっ、使ってるコイツの体がとんでもなく使いやすい。めちゃくちゃ速く動ける。
数秒で女たちの背後をとる。後は『皇金の鉄槌』を振り下ろすだけだ。脳天めがけて。破壊するだけだ。
「『氷盾』!!」
あ? なんだ氷の盾か? 意味ねぇっての。少し力を込めただけで簡単に割ることができた。
「あ、ありがと如月さん……」
「くっ………! 今のうちに雨坂を!」
なんだ逃げんのか? そんなもんすぐに追いつけ――――ってなんだこれ? 体に氷の鎖?
「あんたは行かせないわよ。っていうか黒崎あんた何してんの? なんとか言ってみなさいよ!?」
「………………」
壊すだけだ……っておかしいな。うまく声がでねぇな。まあいい。言わなくてもどうせコイツら全員死ぬんだから―――――――。
「しょうたああああぁぁぁ!!!」
突然誰かの叫び声が聞こえてきた。あぁ?さっきのきたねぇ男か?
「目を覚ましやがれ! 『雷魂破将撃』ぉぉぉ!!」
頭から血を流している男は気を振り絞って全力で異能を俺へと飛ばしてきた。なんであんなに怒ってんだ馬鹿か?
っていうかこれ氷の鎖のせいで動けねぇぞ。クソ、あんなもんまともに受けたら…………!!
「…………!!!」
クソ、だめだ。まだ破壊できてねぇのに……! 意識がもたねぇ。この体、耐性がついてねぇのかよ……。
俺の意識は再び闇の中へ沈んでいった。
* *
「ねぇ、翔くんは大丈夫なの?」
「まあ体は無事じゃ済まねぇと思うけど、とにかく一安心してもいいと思うぜ」
「結局アイツどうなってたのよ? いきなり雨坂のことぶっとばしてたし、何言っても無言だったし」
三人は救護班の到着を待つ間、翔太の体を安静にさせて会話していた。
飛ばされた衝撃で頭から血を流している大輝は施設に備え付けられていた簡易的な包帯を巻いている。しかし止血は十分ではないらしく、依然その包帯は赤くにじみだしている。
「にしても、まさか人格破綻とはな。全然制御できてねぇだろうが翔太め」
「人格破綻ってどういうことなの?」
「簡単に言えばもう一人の翔太が出てきたってことだ。心の闇みたいなもんだ。覚醒した異能には代償があるのは知ってるだろ? それがアイツの場合は、具現化できる武器のストックが増える代わりに自分を制御できなくなる、ってとこだろ」
「確かに異能を使ってから頭が痛いみたいなことを言ってたわね……」
「もしかしたら人格が乗っ取られる合図だったのかもな。やっぱり翔太に能力使わせるんじゃなかったか」
「大輝くんが悪いわけじゃないわ……。でもこれからどうすればいいのかしらね……」
「とりあえず翔太が起きるまで待つことにしよう。目が覚めてから考えても遅くはない。最悪決闘祭で異能を使うとしても覚醒しないことにかけるしかないんだが…………っと」
血を流しすぎたのか大輝がふらついてしゃべるのを止めた。
「そうね、雨坂も今は休むべきよ」
三人が息を吐いたとき、遠くから救護班の隊員たちが駆けつけてくる足音が聞こえてきた。




