模擬戦の始まり
いつもより長めです。
親父が提示した破門の取り消しという条件を満たし、明日香が俺の部屋から出て行ってもらうためにさっそく和葉と大輝に電話して特訓に付き合ってもらうことにした。
まあ、ありのままの内容を話してしまうと怒られる可能性があったので、ただ決闘祭で優勝したいという旨を電話で伝えた。するとこっちが考えていた以上に食いついてあれやこれやと話を進めてしまい、結局毎日放課後に訓練場の一部を貸し切って行うまでに至ってしまった。
大輝は待ってましたと言わんばかりに、六魔の特権をフルに生かして準備したらしい。
それは職権乱用じゃないのかと聞いたら、「必要なことだから問題ない」という回答を得た。すいませーん、これって本当に大丈夫なんですかー?
いや、まあ、いいんだけどな。こっちとしてはお願いしてる立場だからそんな強く咎めることとかできないし。最悪バレたとしても、大輝が責任を取ってくれるならいいんですよ。
そんな感じで大輝に鍛えてもらおうと思っていたのだが。
ここで忘れてはいけないのが、我らが生徒会副会長、水無和葉だった。
三日間俺が学校をさぼっていたことが当たり前のようにバレており、そのことについて一時間ほどお説教を
くらっていた。
いや、本当になんでサボったこと知ってんだよ。怖いよ。
「ねえ翔くん。なーんで休んだのか説明してくれるかなぁ?」
「いや、だから、……あれですよ。仁さんとの決闘があったじゃないですか。それの痛みがまだお残りになってましてね。大事をとって休養を、ね」
あまりの怖さに普段使わない敬語が飛び出すほどだった。
「あのあとはちゃんと医務室で治癒かけてもらったじゃない」
「あ、あれですよ、……体じゃなくて、……そう!心の!心の傷がね、うずくんですよ」
「明日香ちゃんに聞いたけど、家でごろごろゲームしてたって言ってたわよぉ。それはもう楽しそうに」
あ、あの愚妹めぇ!!さっそく監視してんじゃねえかよ!
あの日に限って家にいたのは、もしかして和葉さんに頼まれて俺のこと報告してたからなのか!?理由を聞いたときに変な風にごまかしていたから、おかしいとは思ったんだよなぁ……。
「で。何か言い訳はぁ?」
「申し訳ありませんでした……」
家でのことを既に知っているんだったら、もうごまかしようがないじゃないか。
クソ、今度からは明日香にも警戒しておかないとな。これ以上監視されてはたまらない。
俺が和葉さんに土下座を披露している間、ずっと大輝は腹を抱えて笑っているのだった。
* *
「んじゃ、やるかー」
「あ、翔太待ってくれ。もう一人がまだ……」
「あ?もう一人……?」
四人でやれば、実戦に近い二対二で練習できるってことか。確かにコンビネーションとかの問題もあるだろうし、事前に知っておくのも重要かもな。
いつの間にか自分だけが強くなればいいなんて考えていたが、この決闘祭の意義はここにある。
大会の名を冠する『双方』には二人組で闘うって意味を表しているのではない。
文字通り一人ともう一人の両方が試合に参加しなくては失格になってしまう。一人だけがずっと闘ってたらそれはもう『双方』なんて呼べないもんな。
中には一人が攻撃してもう一人が回復を担当するなんていうのもあるらしいが、基本的には二人でごりごりに攻撃した方が優勢だと大輝は言っていた。
攻撃は最大の防御、なんて言葉もあるくらいだ。攻め続けるのがこの決闘祭の基本戦略なのだろう。
六魔として戦闘経験が豊富な大輝の話を聞いていると、訓練場の重い扉がぎぃと音をたてて開いてそこから一人の女子が急いで入ってきた。
もしかしてあの人が大輝の呼んでたやつなのか?それにしても誰かに似てんな。つい最近どっかで見た気がするような……。いや、他人の空似ってやつか……?
その女子はなぜかまっすぐ俺の方へと向かって大股で距離を詰めてくる。
ん、あ、こいつって……。
俺の頭に一人の名前が浮かんだと同時に、そいつは俺の襟をつかんで激しく揺さぶってくる。
「ちょっと!ちょっと!なんで私にも声をかけなかったのよ!一緒に決闘祭に参加するって決めてたでしょ!?二組で闘うんだから普通は一番最初に私を呼ぶのが筋でしょー!!」
「おい、ちょっ、やめて……」
たっぷり一分間俺を揺さぶって怒りが収まったのか、ようやく襟から手を離した。
「おぇ……。まじで気持ち悪い……」
「あ、あんたが悪いんだから……、ねえ、ほんとに……、あの、ごめん」
俺が本気で酔っていることに気づいたのか、そばに寄ってきて心配してくれる。
なんだ、根はいいやつなのか、師走さん。あれ、師走さん……であってるよな?
「おい、コントはもういいか?如月」
「ごめん、少し気が動転してたかも」
「早速で悪いが、ソイツと大会に出る予定なら二対二形式で模擬戦やるけど、問題ないよな?」
「ええ。準備はできてるわ」
俺は呼びかけようとしていた名前をそっと心の中に閉じ込めると、無言で立ち上がった。




