誰が何と言おうとこれは治療です
仁との戦闘を終えた俺のもとに真っ先に飛んできたのは和葉だった。
「翔くんっ!!大丈夫なの?」
俺の安否を確認するためなのかはわからないが、なぜかひしっと俺を抱きしめてくる。仁の蹴りのダメージがまだ残っているせいか、逆に苦しくなっているんだが。
まあなんか柔らかいものが当たっているのでちゃんと治療されているんでしょうか。何がとは言いませんけど。
「ざまーねえな。あんときの俺と同じ格好だぜ」
遅れてやってきた大輝がニヤニヤと笑いながら言ってくる。
「え、お前も和葉さんに介抱されてたのか?」
てか、苦しくなってきたのでそろそろ放してほしい。
「仁さんの攻撃食らって倒れてるところが同じって言ってんだよ。介抱されるとか羨ましい!そこは俺にはなかったよ!!」
逆切れするなよ……。
「……ま、なんにせよ。仁さんの異能はわかったろ。あの人とはあまり闘わないほうがいいぜ」
「そうよ翔くん!二度とこんな無茶しちゃいけないんだからね!」
「いや異能を聞いただけで、決闘したかったわけでは……」
あれ、俺の方から闘いたいって言ったんだっけ?そんな重大なこと軽々しく言ったっけな?
「黒崎くん」
少し席を外すと言って闘技場から出ていった仁が戻ってきたらしい。
「実に面白い勝負だったよ。後でちゃんと治療してもらうといい。それと名残惜しいが、私はこれから用事があるので先に失礼するよ」
「あ、さっき言ってた用事の続きですか?」
「……っ。いやそれとは別なんだ。すまない」
ん、今かすかに仁の表情が揺らいだような……。いや気のせいか。
「おい、仁さんも忙しいんだから、あんま引き留めてやんなよ」
俺が無理やり引き留めて仁さんと会話をしていると勘違いしたのか、大輝が割って入った。
「ではまた」
「こちらこそありがとうございました」
仁は最後まで礼儀正しく一礼して闘技場から去っていった。
張りつめていた空気がどこかへふっと消えたように感じ、緊張が抜けたせいかどっと疲れが体に降りてきた。
「やべえ……」
誰に向けたわけたわけでもなく、無意識にそんな言葉が出た。
頂点ってこんなに遠いのか。序列一位ってこんなに強いのか。
今の俺じゃ到底追いつくことはできない。追いつくどころか、その背中でさえも見えないだろう。
『翔太。今のお前では無理だ。修業が必要だな』
ふと、脳裏にそんな言葉が浮かんだ。
確か俺が破門される少し前にあの親父から聞いた言葉だ。なぜ今になって思い出すのかね……まったく。
「修行すっかなぁ……」
闘技場の天井を見上げてぼそりとつぶやいていたせいか、傍にいた二人の目がきらりと光ったのには気付かなかった。




