覚醒ノ夢見
長身の少女はどこかほっとしながらも少しいらついた口調で、現れた小柄な少女に詰め寄った。
「おっそいのよー!それでちゃんと『断罪派』どもは連れてきたんでしょーね!?」
「……ご、ごめ」
おどろおどろしながら、小柄な少女はそれに答えた。
その様子をずっと見ていたのか、少年の方は思わずと行ったふうに、小柄な少女に問いかける。
「美霊、どうして……」
「……あ、大輝くん。私――――」
「敵と会話してる場合じゃないでしょー」
長身の少女は、少年と会話していた、否、しようとしていた少女を平手打ちして、会話を遮った。
パチン―――――――。
乾いた音がフロアに響いた。
刹那。
「しのがあきいいーーーー!!!てめぇッ!!」
少年はこれでもかというくらいに声を張り上げ、全身で怒りを表した。自分の体の末端が黒く染まりかけているとは知らずに。
その怒声に対しても、長身の少女――――篠垣香織は、まるで興味がないといったふうに、一切取り合おうともせず、
「で、『断罪派』たちは?どこなの?能力範囲に引っかからないんだけどー」
「あ、あの、今日はもう……転移する力が……その、あまり……」
「はああー?意味分かんないんだけど!」
「……ご、ごめん……」
「ごめん、じゃないでしょ!!『掌握』出来ないんじゃ、どうするつもりよ!?」
怒りの赴くままに言葉で攻めにせめる。やがてその怒りが限界に達したのか、再びその手をあげたとき、
「そこまでにしとけよ」
少年はひどく低い声で静かに言った。
自分が掌握されかけていたことに気づいたのか、はたまた目の前にいる小柄な少女を助けようとしたのか。
とにかく少年は冷静さを取り戻したようだった。
「……ッ!………ひっ……」
篠垣はその少年の気迫に押されて一歩後ずさる。
「もう終わらそうぜ篠垣」
バチバチと手に電撃をほとばしらせながら、
「闘って傷付くことを知らないお前は、他人の感情を利用して支配するお前は、『痛い』って感情を知ってるか?」
「……はぁ?」
「いつも他人に闘わせて、高みの見物してるお前にはわからねぇだろうな。だから」
少年は間を置いた。そして、
「俺が今、教えてやる」
「………ッ!?」
さっきまでの爆発的な怒りはなりを潜め、代わりに現れたのはとても静かな、静かな怒り。
彼が発する怒りを感じ取ったのか、篠垣は急に焦り始め、
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!?ア、アンタの異能だとアタシどころかこの子にまで当たっちゃうわよ?いいのかしらー?」
精一杯の抵抗のつもりか、小柄な少女の肩をがしっと掴んだ。
「だ、大輝くん……」
肩を捕まれた方の少女は震え出す。今にも泣きそうな感じだ。
それを見て少年はかぶりを振って、
「いいや、当てないさ当たるのはお前だけだ篠垣」
覚悟を決める。
その男の目は誰よりも勇ましく、あらゆる悪を憎むかのような目であった。
その目は燃えるように赤く、真紅色に染め上がる。どこまでも赤く、赤く朱を注いでいる。
紅の目は能力者にとって覚醒の証。
かのホメロスのごとき正義を持って、勇ましく少年は叫ぶ。
「雷魂破将擊ぉぉぉ!!」
彼の放った雷撃はどこまでもどこまでも真っ直ぐ飛び、篠垣だけを貫いた。それは決して電導したりなんかしない。
「…………ぁぐぅ!?」
やがて崩れおちるかのように篠垣は倒れた。
傍らの少女は安心したように目を閉じて、頬をぬらす。
聞こえてくるのは静かな嗚咽。
その声を背に、少年はなにかを確かめるようにぎゅっと手を握った。
電撃を放った男の名は、雨坂大輝。
天下の『第六魔導生』に名を連ねる、英傑の一人である。




