染まり染まりて染まらむや
大輝の推測通りだった。
思ったより近くにいて、明日香のことを捜していたらしい篠垣は鼻歌交じりに俺たちの前に姿を現した。
「おーー明日香ちゃんみっけー!……と、二人もいるのか。あーあ、隠れる手はずだったのになぁー」
「篠垣ッ……!?美霊はどうしたっ!」
現れた篠垣に睨みを利かせて、大輝は言い放つ。
「あー。G2は別行動よ?副会長の方に断罪派を送ったから、時間がいるもの」
篠垣は飄々と言い返す。続けて、
「そ・れ・よ・り・も!」
篠垣は俺と明日香の方を見ると、ちろりと舌を出して言った。
「ちょうどいいじゃない!ここら辺で任務を遂行しようかしら?」
そう言って右手をすぅーと上に上げた。
「お兄様、怖いです……」
明日香は子犬のように震えながら俺の袖を掴んできた。
そんな明日香を見て、篠垣はにやりと嗤うと指を鳴らす。
「異能『掌握』発動ぉー!」
まるでその声を待っていたかと思うくらいにどこからともなく黒いもやが俺たちの回りに出てきた。そして、なぜか明日香の体だけを覆い始める。
「あぅっ!?」
「は?アレ?」
明日香が苦しみながら膝をつく一方で、俺は自分の体に何も起きていないことを理解する。
なんで明日香だけが掌握されているんだ?
そんな疑問ばかりが頭に浮かんだが、今はそれどころではない。明日香を助けなければ!
「おいっやめろ!」
「へー?」
とりあえず篠垣を説得してみるも、やはり効果はなかった。
代わりに明日香をさすって落ち着かせようとしたが、『掌握』という能力が今ひとつわからない以上、迂闊に明日香に触れることを躊躇ってしまった。
この黒いもやに触れれば、自分も影響を受けるかもしれない。そうなっては明日香を助けるどころの話ではなくなる。まさにミイラ取りがミイラになってはいけないのだ。
明日香は必死に抵抗しようとしている。
「私の体を……操れ……ても、お兄様への……愛は……操られません!!」
そうしているうちに、
「はーい、完了!それじゃ頑張ってねお兄様」
そんな篠垣の一言を最後に、明日香の体は全身真っ黒に染まる。
「クソっ!……明日香ぁ!聞こえてるなら返事しろぉ!」
俺の苦し紛れな言葉すらも明日香には届かない。
「翔太ぁ、そこから離れろ!ソレはもう明日香じゃねぇ!!」
「だけど……!」
俺たちが言い争っていると、篠垣は
「解除法ならあるわよー?だけど黒崎くんには妹を傷つける覚悟はあるかしら?」
「「……ッ!?」」
明日香を助けるには傷つける?どういう意味だ?矛盾してるじゃないか。
「よく聞けよ翔太。どうしてもすぐに助けたいならば中身を傷つけずに外側だけ壊せ。お前の武術ならそれができるはずだ」
「……?まあ出来なくはないな。わかったよ」
大輝のよくわからないアドバイスを一応受けておく。役に立つかもしれない。それにあいつのことだから、何か考えがあるのだろう。
「ただ、今は逃げとけよ」
「は?」
俺は明日香の方を確認すると、
「……オ、ニイサマァ……。オニ……イ……サマァァ!!」
ぎこちないロボットのように固まり、譫言をはき続ける明日香。
そして、手には包丁。
……おい。
ちょっと待て。
それどこから出したんだよ!?
明日香がゆらりゆらりと近づいてくるのを見て、俺は一目散に駆けだした。
やがて二つの影が去ると、大輝は篠垣と対峙する。
「ようやくわかったぜ。お前の異能の正体がよぉ」
と彼はニヤリと笑う。




