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洋上のアルス・マグナ  作者: kitaro-
第四章:再会したアデプト
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第四章:再会したアデプト――9


          ◇  ◇  ◇


 その部屋の壁には、巨大なモニターが存在していた。


 四角形の部屋は、電子錠付きの扉三つに遮られ、部屋のある三階へ辿り着くためにも、解除コードが必要となる、頑強なセキュリティに守られている。


 それも必然のことだ。何しろ、この部屋の真横には、ホムンクルスの〝生産プラント〟が存在するのだから。

 白い四階建ての施設はビルの形をしていて、しかしながら、〝ガラスの(やかた)〟との名前を持っていた。

 ホムンクルスの生産工場。〝マグヌス・オプス〟はここで行われている。


 つまり、今、自分が立っているこの部屋は、生産プラントの様子を窺うための、モニタールームだ。


「この景色は見慣れたものなんだがね……」


 バハムートは、モニターを眺めながら、郷愁深げに呟いた。

 暫くの後、ここの風景も見られなくなってしまう。だから、ここに来たのだ。記憶の中に閉じ込めるために。


「思い返せば、最初は柄になくワクワクしたものだ。まるで、遠足を前にした子供のように」

 だが、

「今は、胸に空いた大穴を風が吹き抜けるような、虚しさを感じるな。全く、思い通りには行かないものだ」


 自嘲にも似た嘆息を一つ吐いて、ふと、自問した。


 ――私は、一体どこで間違ったんだろうな……?


 それは、フーリガンの存在に気付きながら、対処を打たなかった、六年前のあの日だろうか?

 それは、飛び交う異論をはねのけて、マグヌス・オプスの稼働を始めた、あの日だろうか?

 それは、錬金領土の創造のために、アルス・マグナを無断で複製した、あの日だろうか?


 あるいは、それは、


「アルス・マグナに登録し、アデプトとなったあの日。既に、私は間違っていたのかもしれないな」


 その頃の自分は、完全の探求という命題に、ただ熱意を感じていた。

 当然と言えば、当然だろうか? 錬金術師とは、真理を探求することに、至上の喜びを覚える生き物なのだから。


「しかし、完全や真理など、人間の手には負えない化け物なのだよ」


 完全を求める。

 それを例えるならば、真っ暗な牢獄の中、手枷と足枷を嵌められたまま、目視のみで鍵を探ることに近いと、今なら思えた。


 不可能だと分かっていながら、ある筈もない望みに向かい、もがき苦しむことだと思うのだ。


 しかも、


「うっかり手を伸ばしたら、心まで噛み殺されてしまうのだ。真理とは、何と扱いづらいのだろうな」


 もう一度、今度は深く長く重苦しく、息を吐いた。


「今日で、ここも見納めだろうか? 寂しくなるな」




「それは困るのう」




 思わず、空耳かと疑ってしまう。余りの切なさから、遂に幻聴まで聞こえたのかと。


 だが、声のした方へと目を遣ると、一人の男が立っていた。

 電子錠付きの扉三つに遮られ、部屋のある三階へ辿り着くためにも、解除コードが必要となる、頑強なセキュリティに守られた、この一室に。


「――誰だ、君は? どこから来た?」


 尋ねると、男は生産プラントの方を指で示す。


 一九〇を越える長身。その肌は太陽に愛された、褐色。

 ベリーロングのストレートヘアは、月明かりを体現したようで、宝玉に近い紅の虹彩が、自分の姿を捉えていた。

 顔つきは中性的で、その身に纏うのは、シルク製と思しき白いローブだけだ。


 おかしい。バハムートは思う。彼のようなホムンクルスを生み出した覚えはない。


「……もう一度尋ねよう。君は、何者だ?」


 男は、微笑を交えて、テノールの美声で答える。


「我の名は〝ウロボロス〟。――アルス・マグナの制作者であるよ」

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