第五章:アルス・マグナが創りしもの――1
◇ ◇ ◇
「ウロボロス……だと?」
突如現れた、金髪赤眼の男の台詞に、バハムートは怪訝そうな顔を見せた。
だが、それは飽くまで怪訝だ。動揺や、不安は見えない。寧ろ、疑念に近いだろう。
「如何にも。アルス・マグナの創造者にして、完全なる者を追求する、偉大なる〝錬金術師〟である」
ウロボロスを名乗る男の、尊大な台詞に対し、遂にバハムートは、
「冗談はほどほどにしておくことだ」
零すような笑みを漏らした。嘲笑に属する、軽蔑の笑みである。
「確かに、アルス・マグナの創造者は、ウロボロスと呼ばれる大錬金術師だった。……だが、それは過去の話だ。ウロボロスは、とっくの昔に逝去している」
何しろ、
「彼は、創造こそすれども、登録は行わなかった。――〝アデプト〟とはならず、人としての死を選んだのだから」
バハムートの発言は確かなものだ。
大錬金術師〝ウロボロス〟。彼は、万能細胞の発見・人工知能技術の確立など、複数の分野で偉業を成し遂げた、伝説的な人物であった。
晩年にアルス・マグナを完成させ、錬金術の世界に革新をもたらした、〝アデプト〟の生みの親である。
だが、自身はアデプトになることは選ばず、人としての一生を終えたと言う。
その理由は公表されておらず、当時の錬金術界における、大きな謎の一つだ。
とにもかくにも、ウロボロスと言う錬金術師は、この世にはいない。それが、事実であった。
「君が何故、アルス・マグナやウロボロスのことを知っているかは気になるが……」
バハムートの言葉が、中程で途絶えた。
原因は男にある。ウロボロスを自称する男が、不敵と言える顔つきで、哄笑を始めたからだ。
「――何がおかしい?」
「いや、お前は随分と間の抜けたことを言うのだのう」
バハムートが、男の台詞に眉を動かす。
「創造者が、己の創造物を用いて何もしない筈がなかろう?」
再び、バハムートの眉が動いた。今度の動きは、さっきとは意味が異なるものだ。
前者は、不可解からのもので、
「君は……何を知っている?」
後者は、純粋な疑問からのものだ。
「先ほどから言うておろう? 我は、大錬金術師ウロボロスぞ? 何もかもを知っているに決まっておろう」
バハムートの頬を、冷や汗が伝う。男が続けた。
「アルス・マグナとは、我、ウロボロスのために創られたプログラムである。そして、今や〝マグヌス・オプス〟もその範疇であるよ」
だから、
「それを停止されては困るのう。然らば、阻止せねばなるまい。――お前を、排除してもの」
言って、ウロボロスは三日月を描くように笑む。




