かつての主君への想い
その夜
明智と村重は
酒を酌み交わしながら、昔の話をしていた
二人とも、笑っていた
あの時はこうだった
あれは大変だった
そういえば
自分の娘が、村重の息子に嫁いだ時は……
そんな昔話をしているうちに
話題はいつしか、かつての主君
信長へと移っていった。
明智「信長様は……やはり、すごいお人でしたな」
村重「そうだな……」
村重は、酒を一口飲む
村重「あの方は、確かに…すごかった」
そして…
村重「だが……」
視線を、手元の杯へ落とす
村重「暴走した殿を
止めることができなかった」
明智「………そうですね」
明智は静かに酒を飲み…
そして、少しだけ笑った。
明智「しかし……今、殿にお会いしたなら
『お前の天下は短かったな』
そうお笑いになりそうですね」
村重「……ふっ」
村重も、小さく笑う
村重「そう、かもしれんな」
少しの沈黙が流れる
村重「…明智」
明智「はい?」
村重「わしがお前に話したこと……覚えているか」
明智「ええ、覚えていますよ
『上様の我らへの信頼など
薄氷のようなものだ』
……でしたな」
村重「ああ、……あの時は、そう思った
だが……」
村重は、杯を見つめる
村重「殺されるかもしれない
攻撃されるかもしれない
そんな恐れを顧みず……
もっと食いついて話をしたなら
……聞いてくださっただろうか」
明智「…………今となっては、分かりません
ですが……
殿は、話が分からぬお人ではない
暴走していた、あの時でも……
何か……
我らの言葉は、響いたかもしれませぬな」
村重「………そうだな
武力を行使せず、もっと話をすれば……」
そこで言葉を止めた。
村重「……いや
今さら言ったところで、何も変わりはせぬか」
明智「……ええ」
二人の間に、静かな時間が流れた
そんな二人を見ながら
あなたは、ふと思った。
あなた「ねぇねぇ」
二人がこちらを見る
あなた「前から思ってたんだけど……
あなた達二人
結局、信長が好きなんだね?」
村重「……ああ」
明智「……惹かれずには、おれぬ人です」
あなた「そっかー」
少し考えてから、あなたは尋ねる
あなた「今、会ったら……謝りたい?」
村重「……いや」
明智「謝りは致しません」
明智は静かに答える
明智「おそらく謝ったなら……
『無念を抱えながら
あの夜を乗り越えた私の覚悟を侮るな』
……そう、お怒りになるでしょう」
あなた「ふーん……そんなもんか」
あなたは空を見上げながら続ける
あなた「でも……
信長は幸せだったんじゃない?」
村重「…………」
明智「…………」
あなた「結局、暴走しちゃったけど
一時でも
あなた達みたいな家臣が側にいて……
一緒に過ごせたんだから
それって、幸せだったんじゃないかな」
村重「…………」
村重は静かに杯を見る
村重「………だといいがな」
明智「……ですね」
二人は、静かに酒を飲んだ
――しばらくして
あなた「……ところで、村重」
村重「……なんだ?」
あなた「やっぱり、あんころ餅にする」
村重「…………」
あなた「こしあんにして」
村重「………承知した」
明智「…………」
明智は二人を見つめる
明智「……昼間から
いったい何のお話をされているのですか……」
こうして…
夜は静かに更けていったのだった。




