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「ニコラ、おいで」
戴冠式と結婚式、それからパーティーが終わりを告げ、ニコラは王の寝所を訪れていた。肌触りの良いナイトガウンを身につけて寝所を訪れたニコラに、ラウロはニコッと微笑みながら腕を広げる。少しだけ緊張しながらラウロの腕の中に行くと、ぎゅうっと優しく抱きしめられた。
「ここまで、とても長い道のりだった気がします」
「……うん。本当にそうだと思う」
「でも、本当に……あなたが俺の腕の中にいてくれて、本当に嬉しい。俺たちは正真正銘、家族になれましたよ」
ラウロに抱きしめられながら大きなベッドに二人で寝転がる。ルイスを出産した時も家族ができたと思えたが、たくさんの人の前でお互いへの愛を誓う結婚式は別格だ。ニコラもラウロと同じように、やっと彼と『家族』になれたことを実感した。
「これからは、俺がニコラを一人にしない。俺はきっと、あなたと少しでも離れたら死んでしまうから」
「ふふ……奴隷契約をしてた時みたいだね。物理的に離れられないっていう、契約内容みたいな」
「それよりもタチが悪いですよ」
「どうして?」
「一定の距離、なんてものじゃないです。主には、こうしてくっついていないと」
ニコラの細い腰を引き寄せ、額同士がぴったりと合わさる。お互いの息が唇に触れるほど近くにいないと、ラウロは死んでしまうらしい。
そんな言葉にニコラはきゅんとして、我慢できずに口付けた。ニコラからの口付けをラウロは嬉しそうに受け入れながら、とんとんっと舌でニコラの唇に触れる。その合図に気がついて小さく口を開くと、ラウロの舌が甘くニコラの口内を犯した。
「んん……」
キスにうっとりしているニコラの頬を撫で、ラウロは宝物を扱うように抱きしめる。とくん、とくん、とラウロの規則正しい鼓動が聞こえてきて、心地よかった。
「ひとつ、聞いてもいいですか?」
「ん……なに?」
「いつから俺のことを、好きでいてくれたんですか」
ラウロからの質問に、ニコラは彼への気持ちの変化がいつ頃だったか記憶を巡らせる。きっと、地下牢から脱出した頃にはすでに意識していたかもしれないが、パスフィ王国で暴漢から助けてくれた時にはうっすらと自覚していた気がする。
そして、護るためだと言って初めて体を重ねた時は、完全にラウロのことを意識していた。
そう伝えると、ラウロは「じゃあ、俺のほうが先でしたね」と悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
「先ってなに?」
「好きになったのは、俺が先のようです」
「え! ラウロはいつから僕を好きでいてくれたの?」
「……一目惚れです。地下牢に閉じ込められ、涙に濡れるニコラを見た時に、なんて美しい人なのかと思ったから」
すり、とニコラの目尻をラウロは撫でる。まさか一目惚れされていたとは思わなかったので、改めて告白されると気恥ずかしくなってしまう。ニコラが恥ずかしさに頬を染めていると「あなたには涙よりも笑顔のほうが似合う」と、優しい声が愛情を紡いだ。
「これからはずっと、俺の側で笑っていてください」
「……じゃあ、泣かせないでね?」
「もちろん、俺は絶対に泣かせません。もしも泣きたいことがあったら、俺に教えて」
「うん……僕たちはもう、家族だもんね。お互いが一番の味方で、理解者だから」
――最初の出会いは、絶望から始まった。
それがいくつもの経験と時間を経てニコラは愛を知り、ラウロは運命の人を見つけた。
これから一生側にいたいと思える人と出会えたことは、二人の人生を変えてしまうほどの衝撃と奇跡をもたらしたのだ。
「僕もずっと聞きたかったんだけど」
「なんですか?」
「いつまで敬語でいるつもりなの?」
「ふ、ははっ! うーん……伴侶とはいえ、俺の最初で最後の主ですから。まだ、もうしばらくは抜けないかもしれません」
「奴隷騎士の主、ね……名誉なことだと思って、許してあげる」
ミンフティ大国はその後、大国の名に恥じない大陸一の幸福な国として繁栄の道を辿ることとなった。
一時はウルガル帝国によって奪われた国の復活は、次代の王となったラウロ・ミンフティとその伴侶であるニコラ・ミンフティの手腕によるものだと歴史書には記されている。
ミンフティ大国ではアルファもベータもオメガも関係なく、全ての人が幸せになれる国――そんな噂は大陸を超えた先でも有名で、楽園だとも言われているのだ。
そんな国を作り上げた国王と王妃が亡くなったあとも、ミンフティ大国には人々の笑顔が溢れている。笑い声が絶えず響く国は自然も国民の心も美しく、大陸一幸せな国だといわれている。
終




