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【完結】奴隷騎士の主  作者: 社菘
7.奴隷騎士の主

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 そしてふと、ニコラはあることを思い出した。


「そういえば、ヴェイン兄様から手紙が届いたんだ」

「……どういった内容で?」

「アルディス兄様と二人で、なんとか上手くやってるとか。オメガ保護制度を始めたとかね」

「オメガ保護制度? ……失礼だけれど、あの二人が?」

「そう。笑っちゃうでしょ」


 エリゼオと決着がついた日、ニコラは兄たちと決別する道を選んだ。自分はもう『リンメロ』を名乗るのではなく、ただ一人の『ニコラ』という人間として生きていくことを決めた。


 それからしばらくは連絡を取っていなかったのだが、カイルの出産後にヴェインから贈り物が届いたのが始まりだ。空のような薄い青色が美しいベビーシューズを見た時、どんなに決意を固めても『家族』であることに変わりはないのかと、どこか諦めにも似た気持ちになったものだ。


 ニコラからの返事は送らないが、忘れた頃に手紙が届く。その内容があまりにも信じられないものだったので、ラウロにも話そうと思っていたのだった。


「まぁ……上手くいくかどうかは、あの二人次第だけど。それでも、失敗から学んで前に進もうとしている姿勢は評価しようかなって」

「ニコラがそう言うのなら、俺は何も言わない。ただ、あなたを傷つける者は容赦しない……その気持ちだけはずっと変わりません」

「ありがとう、ラウロ。僕の側にラウロがいてくれて本当によかった」


 ニコラがラウロの肩に頭を預けると、顎を掬われて小さく口付けられた。ラウロはずっと、真っ直ぐに愛情表現をしてくれるのだ。そんなラウロにニコラも素直にお返しをするのは、まだ少しだけ恥ずかしい。


 でも、誰かから『大切だよ』と言われているような行動をしてもらうのは嬉しいことだと知ったので、ニコラも同じだけラウロに返していきたい。そう思えるようになったのは、全てラウロが教えてくれたことだ。


「……時々、俺の首にあなたのものだという印がないことが寂しくなる」

「その代わり、僕のうなじにラウロのものっていう印があるよ?」

「それはとても嬉しいし、愛おしいと思える。でも俺の体のどこにも、ニコラ・ミンフティのものだという印がなかったら、誰が見ても分からないのは……寂しいと思って」

「ふふっ、可愛い。ラウロって時々、本当に可愛いね」


 真剣に悩んでいます、というような顔をしているラウロにニコラは思わず笑みが溢れた。ラウロはニコラから馬鹿にされたと感じたのか「……どうせ俺は、エルネス・ロセットのように余裕がある男じゃありませんよ」と口を尖らせるものだから、ニコラは夜中にもかかわらず声を大にして笑ってしまった。


「あはっ、あはは! ラウロってば、まだエルネスのことを敵視してるの?」

「そりゃあ、そうですよ。俺よりも先に“番”になった男ですからね、あいつは」

「番になったって……想像上のね? 実際になった初めての人はラウロなのに」


 ラウロの機嫌を取るように彼の膝に座り、拗ねている彼の顔を覗き込む。一緒にいるようになって知ったことだが、ラウロは意外と嫉妬深いし、初めてや特別という言葉に弱い。


 本当にニコラのうなじを噛んで番にしたのはラウロだけなので、初めての人だと強調すれば、彼は満更でもない顔をした。


「じゃあ、僕のものだっていう印をつけてあげる」


 奴隷契約をしていた時に、紋章が浮かんでいたラウロの首筋にニコラは吸い付いた。じゅっと強く吸い上げ、赤く変色したそこを最後にぺろりと舐める。綺麗についたキスマークに、今度はニコラのほうが得意げな顔をした。


「消えそうになったら、またつけてあげる。ラウロが僕のものだってみんなに分かるように」

「ふ……これはいいですね。主のものだと実感できます」


 ラウロは嬉しそうに笑いながら、ニコラのうなじに優しく口付けた。ラウロがつけた歯型がくっきりと浮かび上がるそこは、ニコラにとっても宝物なのだ。


「ほら、もう寝よう? ルイスの寝顔を見てから、僕たちも寝室に行かなくちゃ」

「ああ、そうしよう。俺も眠たくなってきました」


 ルイスの部屋を覗くと、可愛い我が子はすやすやと眠っていた。寝息を立てるたびに金色の柔らかい髪の毛がふわりと揺れている。色素は薄いがラウロに似た空色の青い瞳は愛らしく、ぱっちりと開いた目を見ることができる翌朝を想像してニコラは微笑んだ。


「……この子がアルファでもベータでも、オメガでも、生きやすい世界にしてあげたい」


 ニコラがルイスの頬を撫でながらぽつりと呟く。隣にいるラウロはニコラの肩を抱き寄せ「俺とニコラが一緒に統治する世界では、きっと実現できる」と力強く肯定した。


 ニコラとラウロが出会ったことで、新たな時代が幕を開けようとしている。そしてそれは単なる夢物語ではなく、本当に実現できるという確かな希望を持っていた。



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