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◆ ◇ ◆ ◇
エリゼオ・リュガーとの決着から、あっという間に三年が経った。
これまでウルガル帝国に仕掛けられた戦により甚大な被害を受けた国や街の復興に、アーサーをはじめライアスたちは奔走。問題解決までに特に時間がかかったのはエルフの国、カルテア小国とのいざこざだった。
国を脅かすエリゼオがもういないのだからと同盟を解消して独立を望んだが、彼らの作る妖精の粉は今後も厄介なものだと判断された。ラウロとアーサーでなんとか説得し、彼らの技術を悪用させないためにも、ウルガル帝国との同盟はそのまま継続されることとなった。
「……国王陛下、そろそろお休みになられては?」
すっかり夜の帳が下り、オレンジ色のランプだけが淡く照らしている薄暗い室内。手元の書類に忙しなくペンを走らせている、疲れた顔をしたラウロにニコラはそっと声をかけた。
すると先ほどまで難しい顔をしていたラウロがパッと表情を明るくさせ、休憩の誘いに来たニコラに手招きをした。
「ニコラ……」
「仕事、しすぎだよ。レイヴンたちがへとへとになってた」
「皆には休んでくれと言っていますから……」
「そう言っても、王が休んでいないんだから、レイヴンたちが休めるわけがないでしょう」
ニコラとラウロ、レイヴンをはじめとする騎士たちの多くはミンフティ大国へと戻ってきた。争いのせいで枯れ果てた大地を整備し直し、ボロボロの王宮の修繕も行った。
その甲斐もあり、なんとかミンフティは復興しつつある。大陸を渡った女性やオメガ、子供たちもしばらくしたら再びこの地に帰ってくる運びだ。
ラウロはミンフティ大国の生き残りの王太子として国の長に立つことを決め、毎日忙しそうに仕事をしている。今までエリゼオ・リュガーの復讐しか考えてこなかったからと、これからは民のために生きようと必死になっているのだ。だから、仕事に根を詰めすぎる節がある。
誰も何も言わないが、このままではいつか倒れてしまう。ニコラくらいしかラウロを止められる人はいないのだ。
「もうすぐ戴冠式なんだから、いま倒れられたら困るよ」
「戴冠式だからこそ、いま抱えている仕事は消化しておかないと」
「だとしても、今日はもうやめて? 主命令だよ」
「……そう言われては、やめざるを得ませんね」
ラウロはやっとペンを置き、膝の上に座るニコラに向き直る。顎を掬われてキスをされると、ニコラの腕は自然とラウロの首に回っていた。
「戴冠式のあとは、結婚式です。あなたの美しい姿が見られるかと思うと、今から楽しみで仕方ない」
「ふふ。僕も、ラウロの晴れ姿を楽しみにしてる。ルイスにも見せないとね」
実は、ニコラとラウロの間には生後半年になる息子のルイスを授かった。戴冠式や結婚式は落ち着いてからと話していたのだが、小さな天使が先に二人の元へやってきてくれたのだ。
ニコラの出産の際にはヴァニラ神聖王国から助産師が駆けつけ、痛みを和らげる薬などの調合師としてパスフィ王国からジャスミンも来てくれた。ジャスミンの父、ヘンリーは赤ん坊用の服や肌着などを大量に作ってくれて、ルイスのドレスルームはたくさんの衣類で溢れている。
今度のラウロの戴冠式の衣装やニコラの結婚衣装もヘンリーが手掛けてくれる予定で、今から二人ともワクワクしているのだ。
「そうだ。ラウロの大好きなクリームスープを作ってあるけど、食べる?」
「本当に? それはぜひ」
二人で誰もいない厨房に行き、鍋たっぷりに作っていたクリームスープを皿に盛り付けた。おまけに黒パンを一、二枚スライスして添える。ニコラが準備をしている隣で、ラウロが野菜と鹿肉を使って肉串を作った。スープと肉串を並べると、まるで二人で旅をしていた時のような食事を思い出させた。
「……うん。やっぱり、俺の人生の中で一番美味しい料理です」
「それはよかった。ラウロが作ってくれる料理も好き。本当に、僕の人生を変えてくれたから」
ミンフティ大国には料理人をはじめ侍従や侍女たち、街にも色んな職業の人たちが戻ってきた。王宮ではいつも料理人が作ってくれる美味しい料理を食べているが、こうして時々は二人の思い出の料理を作っては語り合う。
ニコラはラウロと過ごすこんな時間が、愛おしくてたまらなかった。




