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ふと目が覚めると、窓から差し込む光が白んでいた。
ラウロが結界を張ってくれたのか肌に触れる空気は冷たくない。隣に眠っているラウロはまだ目を瞑っていて、彼の首筋がニコラの目に入った。
「なくなっちゃ、った」
ラウロのことを奴隷から解放したかったニコラだが、二人を繋いでいた証がなくなるのを目の当たりにすると少しだけ寂しくなった。
「でも、僕……」
感傷に浸っていたニコラはふと、うなじがじくじく痛むのを感じる。チョーカーがなくなって開放感がある首元に触れると、うなじの噛み跡に指先が当たった。
それは昨夜、ラウロと体を重ねた時に噛まれたものだ。何となく自分の体の中に温かいものが流れている気がして、ラウロから抱きしめられているようにも感じた。
「ん……眠れませんか……?」
「ううん。起こしちゃった?」
「いえ……大丈夫です」
ニコラが起きている気配が分かったのか、ラウロも薄く目を開ける。彼の口元には笑みが浮かんでいて、ニコラの頬をそっと撫でた。
「体の調子は?」
「変なところはないよ。……うなじだけ、かな」
そう言うとラウロは僅かに目を開く。だがすぐに愛おしそうに目を細め「触っても……?」と小さく懇願するので、ニコラは頷いた。
「本当に……俺が噛んだ跡が残ってる」
見やすいように体の向きを変えると、ラウロはうなじを掻き分けて噛み跡を眺める。くっきり浮かび上がる跡を指先でなぞりながら微笑んでいるのが、ラウロの顔を見なくても分かった。
噛み跡に触れられるとドキドキして、思わず脚を擦り寄せた。
「番になれたんですね、俺たち」
「うん……番になれたんだよ、ラウロ……」
出会った時は、まさかラウロと番になるとは思っていなかった。
ニコラは誰とも番になったり結婚しないまま、リンメロ王国のあの屋根裏部屋で人生を終えるのだと思っていた。
それがまさか王国を出て大陸を移動し、広い海を見たり、知らなかった世界を見られたのはラウロのおかげだ。その長い時間の間に仲を深め、愛が生まれたのは奇跡ともいえる。
こんなにも大切にしたいと思える人ができて、その大切な人と結ばれたことにニコラは胸がいっぱいだった。
「嬉しいです、本当に……感動して何も言葉が出てこない……」
「ふふ、僕も同じ気持ち。僕たち、本当に結ばれたんだね」
ラウロはニコラを後ろから抱きしめ、うなじに口付ける。跡に触れられると背中にぞわりと興奮が走って、小さな声が漏れた。
「……朝からあまり煽らないでください、ニコラ」
「そ、そういうわけじゃ……」
「俺があなたを変えてしまったんですかね?」
「んっ」
後ろから下腹部を撫でられると、より一層びくんっと体が震えた。今まで誰にも触れられたことがなかった体を、ラウロから暴かれたのは真実だ。彼しか知らないニコラの体は、ラウロから触れられると条件反射で反応してしまう。体がどんどん熱くなってくるのを感じて、ニコラは「これ以上は……!」と小さな声で静止した。
「これから……ミンフティの復興で忙しくなります。でも、あなたが側にいてくれるなら頑張れる」
ニコラの肩口に顔を埋め、ラウロはぎゅうっと強く抱きしめた。これからはラウロと共に国の再建にニコラも手を貸し、ミンフティの民のためにも国を取り戻す決意をしている。この地が再び緑や色とりどりの花で溢れ、人々の笑い声で溢れる国にすることが二人の新しい夢となったのだ。
「ラウロ……」
「はい?」
「僕の居場所になってくれて、ありがとう」
再びくるりと体の向きを変えてラウロと見つめ合い、つんっと鼻先同士を触れ合わせる。紋章がなくなったラウロの首筋を撫でながら彼の頬に手を滑らせ、ニコラのほうから小さく口付けた。
「ラウロが僕の番で嬉しい。愛してるよ」
素直な気持ちを伝えると、ラウロの瞳が煌めいたように見えた。
「俺のほうこそ……番になってくれてありがとう、ニコラ」
顔を見合わせながら微笑む二人を、白んだ朝日が柔く照らしていた。




