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「ニコラ。俺と共に……ミンフティの地で生きてほしい。これからの人生を、俺の側で」
「うん……うん。僕もラウロと一緒にいたい。僕の人生には、この人生の終わりまでずっと、ラウロがいてほしい」
ニコラの人生はもうずっと、自分のものではないと諦めていた。屋根裏部屋に閉じ込められてからは何かを期待することはなく、逃げようという意思さえもなかったのだ。
そんなニコラが変われたのは、確実にラウロのおかげである。彼と出会えたからニコラはこれからの人生に希望を持ち、誰かを大切にし、愛するという気持ちを知った。
この気持ちを失ってはいけないと、ニコラは自分の意思で初めて決断できたのだ。
「奴隷契約は解除されたけれど……これからはまた、新たな契約を」
「え?」
「結婚をして、番になる。あなたを一生俺のものにする、死ぬまで解除されない契約です」
ニコラの腰を抱きながら笑っているラウロに、きゅうっと胸が締め付けられる。あまりにも愛おしい『契約』が嬉しくて、ニコラは踵を浮かせてラウロにそっと口付けた。
「そんなに甘い契約なら、喜んで」
そう言ってニコラもくすくす笑う。先ほどまで笑っていたラウロは真剣な表情になっていて、彼のオーラにニコラは思わずびくりと肩を震わせた。
「え、ラウロ? どうしたの……?」
「……あまり、俺を煽るようなことはしないでください」
「へ……」
どういう意味か聞き返そうとしたが、ニコラの唇はラウロによって塞がれた。何度か触れるだけのキスをして、隙間から熱い舌が入ってくる。口内をまさぐられる激しい口付けに、ニコラの腰は砕けてしまった。
「は、ぁ……っ」
「……フェロモンが。誘ってますか?」
「そ、な……わかんな……」
状況が一旦落ち着いたという安堵もあったからか、ニコラはラウロからの口付けで発情期を誘発されてしまった。彼を愛おしいと思う気持ちが堪えきれなくなり、ぶわりとフェロモンが溢れ出してきたのだ。
ニコラは途端に全身が熱くなり、頭の中もふわふわしてくる。目の前のラウロのことしか考えられず、彼に触れてほしいという考えで頭がいっぱいになった。
「俺の部屋が無事かどうか分からないが……」
突然の発情期がきて、くてんくてんになってしまったニコラを抱えたラウロは、昔使っていた自室に歩みを進めた。
「なんだかいつも、綺麗な場所であなたを抱けませんね」
「そんな、こと……」
「守護印を授けるための初行為の時は、気を使ったんですが……抱いてほしそうにしているあなたを前にすると、俺も我慢できなくなります」
特に荒らされていなかったラウロの自室だが、放置されていので埃っぽい。魔法でサッと掃除をしたラウロは、広いベッドにニコラを下ろした。
「……今からあなたを抱くと、俺は確実にうなじを噛みます」
ニコラのフェロモンの誘惑に耐えながら、ラウロが低く呟いた。うなじを噛む、という言葉にニコラの心臓がどくどくと大きな音を立てながら暴れ狂い『そうしてほしい』という思いが頭を駆け巡る。
ふわふわと溶けてきている頭で考えたのは、自分がチョーカーを外すべきだ、ということ。
「ラウロのものに、して……?」
オメガだと分かってからずっと着けていたチョーカーを外し、床にするりと落ちていく。
そんな様子を見つめながら、ラウロがごくりと唾を飲むのが分かった。
「ニコラ……本当に、後悔しないですか?」
真っ赤に染まるうなじに触れながら、ラウロが問う。
ニコラはもう、頭も体もラウロのことを求めている。この感情を愛と言わないのであれば、世界はおかしいと思えるほど。それなのに、ラウロからうなじを噛まれて後悔するなんて、絶対にないと言えるのだ。
「後悔しない……絶対に、後悔しないよ」
ニコラがそう言うと同時に、ラウロからうなじに歯を突き立てられた。頭のてっぺんからつま先までビリビリと雷が流れたような衝撃を覚え、目の前にはチカチカと火花が散る。
「……愛してる、ニコラ。あなたと出会えて、本当によかった。俺はきっと、あなたと出会うのを待っていたから」
生理的な涙を流し、ぐちゃぐちゃになっているニコラは意識が遠のきながらも、世界で一番愛おしい人に抱きついたまま離れなかった。




