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【完結】奴隷騎士の主  作者: 社菘
5.星の導き

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27/40



「ニコラ、こちらへ」


 騎士たちが捕虜の所持品やウルガル帝国へ向けての出発の準備をしている最中、ニコラはラウロから廃屋の一つに連れ込まれた。


「振り回してくれたお礼をしなければなりませんね、主」


 月明かりだけが割れた窓から降り注ぐ薄暗い室内に、ラウロの低い声が響く。青白い光を吸い込んで光っているラウロの青い瞳に背筋がゾワっとしたかと思えば、下腹部がずくりと重くなるのを感じた。


「ま、まって、謝らせて……! 勝手な行動をして申し訳なかったと思ってるから!」


 ゆっくりと近づいてくるラウロに必死に謝罪をするが、彼は真顔のままニコラの元へ足を進める。起こっているラウロをどうやって収めたらいいのか分からず、ニコラの頭の中は焦りでぐちゃぐちゃになっていた。


「ちょ、直前まではちゃんと、船に乗ろうとしてた! でも、どうしても、解除の呪文が言えなくて――っ」


 謝罪の途中だったが、ニコラの口からはそれ以上言葉が出てこなかった。


 ラウロから後頭部を引き寄せられ、彼の温かい唇が重なったからだ。薄く開いた隙間からぬるりと舌が差し込まれ、くちゅくちゅと卑猥な音を立てながら口内を犯される。そんな音に耳を塞ぎたくなりながらも、ニコラは足の力が抜けてカクンッと膝を折ってしまった。


「……別れるはずだったあなたが今も側にいて、嬉しいと思っている俺を罰してください、主」

「ふぁ……?」

「離れたくなかった。忘れてほしいなんて嘘です。俺は、あなたの人生の一部になりたいと願ってしまいました」


 腰が抜けて座り込んでしまったニコラの体を強く抱きしめるラウロの言葉を理解するのに、時間がかかった。ラウロも同じ気持ちでいてくれたことが嬉しくて、ニコラは彼の肩口に顔を埋め、存在を確かめ合うように抱きしめた。


 ラウロに抱きしめられると、自分の中で何かがぴったりはまるような感覚がして安心する。まるで魂同士が惹かれあっているような感覚さえ覚えるのだ。


「僕も……僕の人生にラウロがいてほしい。そしてラウロの人生にも、僕がいたい。この気持ちが愛なんだって、ラウロと出会って初めて知ったんだよ」


 ラウロの顔を見ると、彼の瞳も赤く潤んでいた。ニコラはそっと頬を撫で、触れるだけのキスをする。唇を伝ってニコラの中に『この人のことが好きなんだ』という優しい気持ちが流れてきて、心が温かくなった。


「……全てが終わりを告げたら、これからを俺と共に歩んでくれますか?」


 ニコラの手を取り、指先にラウロは口付ける。懇願するような瞳を可愛いと思ってしまうほど、その申し出はニコラにとって嬉しいものだった。


「もちろん、嬉しい。だから……ウルガルで何があっても、自分の命を優先してほしい。絶対に生きていて。主命令だよ」

「分かりました、主。一番はあなたの命、その次に自分の命を優先します」

「もう、ばか……」


 ニコラは、ラウロ自身の命を一番に優先してほしいという意味で言ったのだが、彼は分かっているのかいないのか。ラウロは微笑みながら、布団代わりに床に敷いたローブの上にゆっくりとニコラを押し倒した。


「この先、なにがあるか分かりません」

「……だから?」


 ラウロを見上げながら首を捻ると、彼はうっすらと唇に笑みを浮かべた。


「聖紋を付け直したほうがいいかなと、奴隷としては思うのですが」

「でも、誰か来るかも……」

「結界を張りましたし、消音魔法もかけました」

「用意周到すぎない?」


 実際、ラウロから連れ込まれた家はレイヴンたちがいる場所から一番離れている場所だ。中が見えない結界と消音魔法もかけているということは、外からニコラたちの姿も見えないし、声も聞こえないということだ。


 そして実は、ヴェインを光の結界で跳ね除けたあとに下腹部の聖紋を確認すると、色が薄れていたのだ。結界の力を使ったせいなのか分からないが、これからウルガル帝国へ行くのなら重ね付けしておいたほうが安心であるのはニコラも分かっている。


 ただ、気持ちを確認し合ったあとの行為というのは初めての時よりも緊張して、ニコラはカチカチに固まってしまった。


「前と同じように、痛いことはしません。それにウルガルの皇帝は純潔のオメガが好きだと、あなたの兄上がおっしゃってましたから……今のあなたは、皇帝の花嫁にはなれません」


 そう言いながら、ラウロはニコラを押し倒す。月明かりに照らされた真剣な顔のラウロにドキッとして、ニコラは緊張しながらも彼の頬に手を伸ばした。


「……僕は、皇帝の花嫁になんか、なりたくない。ラウロのものでいたい……」


 ニコラの言葉にラウロは泣きそうな顔をして頷き、ニコラの首筋に唇を近づけた。


「……本当は、あなたのうなじを噛みたい。うなじを噛んで、俺のものだという証を残したい……」

「らう、ろ……」

「あなたの唯一無二に……番になりたい……ッ」


 今まで一緒に旅をしてきたが、その中で初めて聞くラウロの『本心』だと思えた。ニコラを強く抱きしめるラウロの背中に手を回し、ニコラは彼にすりっと頭を寄せた。


「僕も同じ気持ちだよ、ラウロ……だから、今だけは……」


 煌めく瞳と見つめ合い、そっと唇が重なった。



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