愛情
主人公ロリコン疑惑か
「たつろう。たつろう? どうしたの?」
舌足らずな少女の声が、鮮明に空の頭に響く。
空間が薄暗い。
ピチョン、ピチョンと雫が落ちる音がする。
「…………よぶな」
「ん? なぁに? たつろう。」
「お前が俺の名を呼ぶな!!」
少女の頬を力一杯殴る。ガツン、と鈍い音が鳴り、赤黒い血が滴った。
……傷ついたのは龍郎の右手だった。
少女は微動だにしていない。少女の左頬は瞬時に固い、漆黒の鱗に覆われていた。
龍郎の呼吸が荒くなる。
「どうして……どうして!」
二本の太い腕で、少女の細く柔らかい首を絞める。絹のような触り心地がする壊れてしまいそうな首を、容赦なく絞め上げる。
しかし力を込めるたびに首が鱗で覆われていき、固く、冷たくなるのを感じる。
頭が熱い。息も熱い。
「たつろう。……すごく、ステキだよ」
目を見開く。
首を締められていた少女は、自分が受けている力とは反対に、裸のまま、優しく、母鳥の羽毛の様に龍郎を抱きしめた。
少女の甘い匂いが漂って来る。
そうだ。前にもこんなことがあった。あれは、相棒が相棒になる前の話だ。
あいつの首を絞めた。力を込めてちゃんと息が止まるように。
地獄の苦しみだったはずなのに、あいつは、顔を真っ赤にしながら抱きしめてきたんだ。
優しく、柔らかく、笑顔を浮かべながら。
「キミって本当に素敵だよ。」
あの言葉を聞いたとき、心の底から怖くなった。
「……どうして。気に入らないなら殴り返せばいい。痛いなら振り払えばいい。」
腕に込めていた力が緩む。声が震える。
少女は息を少しも乱していなかった。
「大丈夫よ、たつろう。わたし、これくらいじゃ死なないわ」
少女が無抵抗の龍郎の左頬に優しくキスをした。
「わたしね、たつろうのことが『だいすき』みたい。ひとめぼれ? っていうの?」
透明な声が耳をくすぐる。
「わたしが愛せるのはあなただけだわ。だから。あなたもわたしを愛してちょうだい?」
理不尽な一言。しかし、それも龍郎の耳には届かなかった。
「……もう………どうでもいいか」
ふふ、と何も面白くないのに笑い声だけがこみ上げてくる。力なく座り込む。
静かな空間に雫の落ちる音だけがする。
「なにも、訊かないのね。ここはどこ?とか。あなたは誰?とか。どうして自分の名前を知ってるの?とか」
大きな琥珀色の瞳で見つめられる。瞳孔がすこし細長く、爬虫類を思わせる。龍郎は催眠にでもかかった心地でいた。
「……ねぇ、わたし。たつろうの笑った顔が見たいな。だって、びっくりした顔と怯えた顔と無表情しか見たことないんだもの」
龍郎の顔をグニグニと弄ぶ。無理矢理笑顔を作った。
「うん。その顔が一番すきよ。ササガワレイなんて男、もう忘れてね。
わたしだけの、たつろう」
龍郎の瞳の奥に火が灯る。
いま。なんと言った?
「……お前が。お前が、相棒を殺したのか?」
ゆらゆらと燃える。
―――この女。まさか。まさか。
「ころした? なにを?」
立ち上がる。
「お前、愛してほしいって言ったな」
「聞こえてたの。うれしい!」
影がかかる。
「お望みどおり、犯してやるよ」
ベルトを外す音がした。




