第556話 魔力0の大賢者、ギャノンの死を知る
ヘンリー先輩から聞かされたのは、ギャノンが死んだという事実だった。
冗談ではない。
ヘンリー先輩の目を見ればわかる。
そもそも彼がこんな趣味の悪い冗談を言う人じゃないことも僕は知っている。
「まさか――僕のせいで」
気づけばそんな言葉が口から漏れていた。
「それは違う」
即座にヘンリー先輩が否定する。
「ギャノンの死と君は一切関係ないよ」
強い口調だった。
だけど僕の胸のざわつきは消えない。
ギャノンには痛みを知る必要があると思った。
だから僕は彼を治療しなかった。
もしあの時、しっかり治療していたら――。
「マゼルの事だから、自分が治療していれば良かったと思ってるんだろうけど」
まるで心を読まれたみたいだった。
ヘンリー先輩が苦笑しながら言う。
「例え君がギャノンの怪我を治したとしても、殺される場所が変わっただけだと思うよ」
「え?」
思わず顔を上げる。
「ギャノンは――殺害されたの?」
問いかけると、ヘンリー先輩は静かに頷いた。
「あぁ」
その表情は重い。
「しかもギャノンだけじゃない。アインドル家の人間は両親も使用人も含めて全員殺されている」
息を呑んだ。
「そんな……」
言葉が続かない。
「でも、どうして」
「それについてはまだ調査中だよ」
ヘンリー先輩は壁にもたれながら腕を組んだ。
「ただ、今のところは見せしめ――それと証拠隠滅が有力視されている」
「証拠隠滅ですか」
「そう」
ヘンリー先輩が頷く。
「アインドル家から金目の物も大量に持ち出されていた。だから最初は強盗の可能性も考えられたんだ」
一度言葉を区切る。
「だけど違法魔法薬に関する書類や記録も綺麗に消えていた。偶然とは考えにくい」
つまり――。
「大魔の蒼月か魔狩教団」
「そういう事」
ヘンリー先輩が答えた。
大魔の蒼月か魔狩教団。
特に魔狩教団は今回の襲撃にも関わっていた。
だけど――。
「魔狩教団が違法魔法薬に関与しているとは考えにくい気がするね」
僕がそう言うと、ヘンリー先輩も頷いた。
「うん。僕も同意見だ」
窓の外へ視線を向ける。
「奴らは人間の扱う魔法そのものを否定している。違法だろうが合法だろうが、魔法薬を広める側には回りにくい」
そう考えると――。
ギャノンの死には大魔の蒼月が関わっている可能性が高い。
ただ、僕は大魔の蒼月について殆ど知らない。
魔狩教団とは何度もぶつかっているけど、大魔の蒼月とは直接関わった事がないからだ。
「大魔の蒼月については詳しくないけど……」
自然と拳が握られる。
「随分と非情な組織みたいだね」
見せしめのためとはいえ――使用人まで皆殺しにするなんて。
その非道さは魔狩教団と変わらない。
いや――下手をしたらそれ以上かもしれない。
「そうだね」
ヘンリー先輩も苦い顔をした。
「それに僕も認識を改めないといけないと思っている」
「認識?」
「以前は学園内に魔狩教団の内通者がいると考えていた」
そう言って眉間を揉む。
「だけど今は違う可能性も出てきた」
「大魔の蒼月……」
「そう」
ヘンリー先輩が頷いた。
「学園内に大魔の蒼月の人間が入り込んでいる可能性も十分ある」
その言葉の重みを感じる。
ヘンリー先輩は生徒会副会長として色々動いている。
今の疲れた表情からも、その苦労が伝わってくるようだった。
「とにかく」
ヘンリー先輩が僕を見る。
「だから君がギャノンの事を気に病む必要はない」
その声は優しかった。
「だけど大魔の蒼月の事もある。マゼルが後れを取るとは思わないけど、十分気を付けて欲しい」
「うん」
僕は頷く。
「気を遣ってくれてありがとう、ヘンリー」
そして小さく笑った。
「それにしても親睦会の予定だったのに、随分と大きな話になったものだね」
「全くだよ」
ヘンリー先輩も苦笑する。
「理事長も今頃頭を抱えているんじゃないかな」
「理事長が?」
「そう」
ヘンリー先輩が肩を竦めた。
「特にファインの家族殺しが冤罪だったって話が広まってね。記者対応や問い合わせで大変みたいだよ」
なるほど。
確かに世間への影響は大きいだろう。
僕は少しだけ胸を撫で下ろした。
これで少なくとも――ファインの背負わされた汚名は晴れたのだから。




