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魔力0で最強の大賢者~それは魔法ではない、物理だ!~  作者: 空地 大乃
第四章 マゼル学園奮闘編

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第555話 魔力0の大賢者、保険魔法に頼らなかった理由を知る

「皆、楽しそうだねぇ」

「料理、美味しそうだね」


 僕たちが話していると、ムスケル先輩とクスリー先輩も会話に加わってきた。


 ムスケル先輩は今日は学園の正規制服姿だ。いつもの筋骨隆々な姿とは違い、今のムスケル先輩はどこか中性的で、年相応のあどけなさすら感じさせる。


「押忍! ムスケル先輩! お疲れ様ッス!」

「ガッツくんは本当に元気だよねぇ。でも僕にそんな畏まらなくていいからね?」


 ガッツが勢いよく頭を下げると、ムスケル先輩が困ったように笑った。


 どちらの姿であっても礼儀を忘れないあたり、ガッツらしいよね。


「ずっと不思議に思ってたんだがよ。なんで制服変わるだけでそこまで姿変わるんだ?」


 アズールが首を傾げながら聞くと、クスリー先輩が面白そうに口元を吊り上げた。


「それ、私もかなり興味あるんだよねぇ。もしかしたら新薬開発の参考になるかもしれないし、色々調べてみたいんだけどさぁ。もう一人のムスケルが許してくれなくてねぇ」


 何だろう。クスリー先輩の笑顔がちょっと怖い。


 口元は笑ってるのに目が妙に爛々としているし、しかも涎まで……。


「調べるって、一体何をするつもりなんです?」


 メドーサが半歩引きながら尋ねた。するとクスリー先輩がニタァっと笑う。


「それはもちろん――」

「聞かない方が良さそうね」


 メドーサが即座に遮った。うん、僕もそう思う。


「でも、ムスケル先輩の保険魔法って本当に凄いですよね」

「うむ。俺も随分世話になった」

「あたしもかなり助けられてるね」

「クマちゃんが破れた時も保険魔法で直ったんだよ♪」

「そうなんだね」


 ベアがクマのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめながら笑う。


 保険魔法に助けられた人は、本当に多いんだろうな。


「そういやDクラスで試合した連中、保険魔法に加入してなかったんだったな」


 アズールがふと思い出したように呟いた。


「アイツらの怪我は自業自得っちゃ自業自得だけど、何で加入してなかったんだろうな」


 その言葉に、クスリー先輩の笑みが少しだけ薄れた。


「――少なくともギャノンは、保険魔法に頼れなかったんじゃないかな」


 空気が僅かに変わる。


「多分だけど、ギャノンは違法魔法薬を常用してた。保険魔法って、そういうの誤魔化せないからねぇ」

「そうだね」


 ムスケル先輩も静かに頷く。


「違法薬物や危険な魔法薬を継続的に摂取していた場合、保険適用外と判断される事があるんだ。その場合、理由もきちんと表示されるから誤魔化しは効かないよ」


 なるほど。保険魔法には、そういう側面もあるんだね。


 それにしても――ギャノンの話をしている時のクスリー先輩の目。


 いつもの軽薄そうな笑みとは違って、まるで氷みたいに冷え切っていた。


 薬を扱う人だからこそ、違法魔法薬を使う者が許せないのかもしれない。


「――さてと。僕はちょっとお手洗い行ってくるよ。マゼルもどうだい?」


 不意にヘンリー先輩が僕に声を掛けてきた。


「え? いえ、僕は特に――」

「そんな我慢しなくていいよ。僕にはそういうのわかるんだから♪」


 そう言ってウィンクする。


 これは――。


「そ、そう言われてみると僕も少し行きたくなってきたかも」

「だろう?」


 僕はヘンリー先輩と一緒に食堂を出た。


 だけど向かった先はお手洗いじゃない。人通りの少ない廊下を抜け、その先にある空き教室だった。


 部屋に入ると、ヘンリー先輩が静かに扉を閉める。


「察しが良くて助かるよ」

「あはは……。でも、わざわざ僕だけ呼んだってことは、何か大事な話なんですよね?」

「まぁね」


 ヘンリー先輩の表情から、いつもの軽さが消えていた。


「丁度ギャノンの話も出たし、そろそろ伝えておいた方がいいと思ってね」


 胸の奥がざわつく。


 ギャノンは特別治療室送りになったと聞いていた。だけど、今こうしてわざわざ呼び出されたということは――


「結論から言わせてもらうよ」


 ヘンリー先輩がゆっくり口を開く。


「ギャノンが――死んだ」


「――え?」


 思わず声が漏れた。


 胸の奥が、嫌な音を立ててざわつく。

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