第553話 魔力0の大賢者、に惚れる――男?
「お前らよく考えろよ! あいつらはZクラスだぞ! Sクラスに勝ったのだって卑怯な手を使ったからに決まってるだろ!」
僕たちを馬鹿にしていた男子生徒の一人が、顔を真っ赤にしながら声を荒げた。
周囲の生徒たちも一瞬ざわつく。だけど、さっきまでとは違って、同調する声は少ない。
「いや、なんでそんなことが言えんだよ」
アズールが呆れたように肩を竦める。
「直接聞いたんだよ! 俺はSクラスのラクナと仲がいいんだ!」
男子生徒が胸を張って言い放った。
だけど――
「ラクナが君にそう言ったってこと?」
僕が確認すると、男子生徒は鼻を鳴らした。
「そうだよ! お前の小細工で負けたってな!」
思わず眉間に力が入る。
「ラクナがそんな事を言うとは思えないよ」
「黙れ卑怯者! そうでなきゃお前がラクナに勝てるわけ無いだろう! ラクナだって悔しがってたぞ!」
「ほう――誰が、どう悔しがっていたと?」
低い声。
男子生徒が勢いよく振り返った瞬間、その顔から血の気が引いた。
背後に立っていたのは――ラクナだった。
「ら、ラクナ……」
「俺はお前の顔など見たこともないが?」
ラクナが冷え切った目で見下ろす。
男子生徒の肩がびくりと跳ねた。
「えっと、その……ほら、遠くから見かけたりとか……」
「二度は言わん」
ラクナが一歩前に出る。
その瞬間、空気が張り詰めた。
「俺の名前を勝手に使うな。次に見つけたら――潰すぞ」
「ひ、ひぃぃぃいいい!」
男子生徒は半泣きになりながら食堂から逃げ出していった。
周囲からも。
「やっぱ嘘だったのかよ」
「見栄張ってただけじゃん……」
「ラクナ怒ると怖っ……」
そんな声が漏れてくる。
ラクナは周囲の反応など興味もないといった様子で鼻を鳴らした。
「ありがとうラクナ」
「フンッ。お前に礼を言われる筋合いはない。俺の名誉の為にやっただけだ」
そう言ってラクナはそっぽを向く。
「相変わらず素直じゃない奴だなお前は」
「……」
「何で俺を無視するんだテメェは」
アズールが顔を近づけて文句を言うけど、ラクナは徹底して無視していた。
う、うーん……しょうがないなぁ。
「お礼はラーサの事もあってだよ。改めて魔狩教団から守ってくれてありがとう」
「だから言っているだろう。お前の為じゃない。ラーサの為だ」
「お礼ぐらい素直に受け取れないものかしらね」
「難儀な性格だな」
メドーサとガロンが苦笑する。
そんな中――。
「ラクナ、何か変わった気がする」
聞こえてきたのはアイラの声だった。
どうやら僕たちを見つけて来たみたいだね。
「アイラ――フッ、遂に気づいたか。俺の魅力に」
「そんなの今後一生気づくことはない」
「もぐ……アイラちゃんも、モグ、なかなか辛辣だねぇ……モグ」
「食べるか喋るかどちらかにした方が宜しいでしょうとお伝えします」
ほっぺを膨らませたまま喋るリミットに、メイリアが淡々とツッコミを入れていた。
するとアイラが腕を組みながらラクナをジッと見つめる。
「ラクナ――お前まさか、マゼルに惚れた?」
「えぇえええぇえええッ!?」
「気持ち悪いこと言うな!」
僕も驚いたけど、ラクナ本人も顔を引き攣らせて叫んでいた。
「怪しい」
「怪しくない!」
「漢が漢に惚れる――いい話じゃないかい」
「マゼルのことは私の方がもっと好きだもん!」
「ベアとは後でゆっくりお話する必要がありそうですね」
「姫様、顔が怖いです」
「フッ、愛の形は人それぞれさ」
「バラの花束用意してあげようか?」
いつの間にかSクラスのマリー、ベア、イスナ、クイス、ライトニング、ローズまで合流していた。
一気に食堂が騒がしくなる。
「だから違うと言っているだろうが!」
「そんなに必死になると逆に怪しい」
「うふふ、確かに」
「お前ら面白がってるだろ!」
ラクナが珍しく本気で声を荒げている。
その様子が何だかおかしくて、周囲の生徒たちからも笑い声が漏れていた。
少し前まで、Zクラスに向けられていたのは嘲笑ばかりだった。
だけど今は違う。
こうして皆と笑い合える空気がある。
それがなんだか、少し嬉しかったんだ。




