第552話 魔力0の大賢者、周りの反応の変化を感じる
「しかし移動もすっかり慣れたな」
「あぁ。最初に比べたら距離が短く感じるぐらいだ」
「いや、僕は今でも結構疲れるんだけどね……」
本校舎へ向かう山道を歩きながら、アズールとガロンがそんな話をしていた。
旧校舎から本校舎までは山を下りる必要がある。普通に考えればかなり大変な距離だと思う。
だけど、毎日のように行き来している内に皆も慣れてきたみたいだね。
ドクトルは流石に他のみんなより息が上がっているけど、それでも弱音を吐かずについてきている。
「美味しいお昼のことを考えれば疲れなんて吹き飛ぶよ~♪ ねぇシアンちゃん?」
「…………」
「ちょっと、シアンが反応に困ってるじゃない」
テンション高く話しかけるリミットに対して、シアンはいつもの無言。
だけど、少しずつだけど皆との距離感が近づいていってる気がする。無言のまま隣を歩いている時点で、リミットには得に気を許している気がするね。
「し、食堂はシグルとメーテル向けの料理もあるので助かります」
「ガウガウ!」
「ピィ~♪」
アニマの言葉に合わせるようにシグルとメーテルが嬉しそうに鳴いた。
うん。あの反応を見る限り、本当に食堂のご飯が好きなんだろうね。
「ビロスも食堂の料理好き~♪」
「食堂の料理は栄養バランス的にも優れているものが多いとお伝えします」
ビロスが両手を上げて笑顔を見せる横で、メイリアは相変わらず冷静だった。
でも、メイリアは栄養分析まで出来るから説得力があるんだよね。
そんな話をしながら歩いている内に、本校舎へと到着した。
休校期間があったせいか、なんだか少し懐かしく感じる。
「皆、来てくれたんだね!」
食堂に入った瞬間、ハニーが満面の笑みで手を振ってきた。
「はぁ~久しぶりの食堂の匂い~。もう端から全部頼みたいよ~」
「リミットの場合、本当にやりそうだから怖いのよね」
目を輝かせるリミットを見て、メドーサが呆れ半分に肩を竦める。
その後、僕たちは料理を注文して席についた。
だけど――
「見ろよ、Zクラスだぜ」
「Sクラスと引き分けたとか言ってるけど、どうせ何か裏があるんだろ?」
「オンボロ校舎組は大人しくしてればいいのにな」
そんな声が周囲から聞こえてくる。
……うん。やっぱり簡単には変わらないか。
「親睦会終わってもまだこれかよ……」
「――うむ」
アズールとガロンも露骨にげんなりしていた。
これだけ色々あったのに、それでも変わらない人はいる。
僕も少しだけ肩を落としかけた――その時だった。
「でも、Zクラスって普通に頑張ってたよな?」
「私もそう思う。Sクラスと引き分けたのって純粋に凄いじゃん」
「え?」
今までとは違う声が聞こえてきた。
「な、なんだよ急に」
「この前までお前らだってZクラスのこと馬鹿にしてたじゃねぇか」
「……まぁ、そうだったけどさ」
「でも魔獣騒ぎの時も、Zクラスが結構動いてたって聞いたし」
「実際、被害少なかったのってあいつらのおかげなんだろ?」
「そう考えると、もう前みたいには言えねぇよな……」
食堂の空気が少しずつ変わっていく。
以前みたいに、一方的に僕たちを見下すだけじゃない。
認めようとしてくれている人たちもいる。
「……なんか調子狂うわね」
「ハハッ。でも悪い気はしねぇだろ?」
メドーサにアズールが笑う。
「まぁ……そうね」
少し照れくさそうにメドーサが視線を逸らした。
「当然だ。俺たちは結果を出したのだからな」
「ガロンが珍しくドヤ顔してる」
「む、事実を言っただけだぞ」
そんなやり取りに自然と笑みが零れる。
そうだ――。
僕たちのことをちゃんと見てくれている人はいる。
親睦会での戦いも、皆の頑張りも、無駄じゃなかったんだ。
食堂のざわめきを聞きながら、僕はそんなことを改めて感じていた。




