第550話 七災の子羊
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「皆、よく集まってくれたね」
ゼロサスが穏やかな笑みを浮かべながら、円卓を囲む俺たちを見渡した。
柔らかな物腰。だが、その場にいる誰もが知っている。こいつが教団の中でも最も危険な存在の一人だということを。
「私たちが揃うなんて珍しいわね。ただ、一人足りないみたいだけど?」
赤い波打つ髪を指先で弄りながら、ヴォン・ヴァルディースが妖艶に笑う。
教団の中でも“次世代”と呼ばれるのが俺たちだ。
その中でも特に危険視されている七人――それが【七災の子羊】。
だが今この場にいるのは六人だけ。
本来なら、もう一人――ファイン・シャーズがいるはずだった。
「――残念ながらファインは魔導師団に捕らえられました。同行したバジルたちも含めてね」
「……それで影竜の反応が消えたのか」
気怠げに呟いたのはレム・シャドウ。
長い前髪の隙間から覗く瞳には、興味とも退屈ともつかない色が宿っている。
「せっかく同じ“影”の使い手だったから貸してあげたのに――残念」
教団第二位――大司教。
その肩書きに違わず、こいつの力は異常だ。
「情けない奴だ」
低く唸るような声。
筋骨隆々の巨躯を椅子へ預けていたガルム・ベルゼイドが鼻を鳴らした。
頭を丸め上げた坊主頭。全身には禍々しい紋様の刺青。まるで戦うためだけに存在している男だ。
「復讐だか何だか知らんが、仕事を選り好みする奴など信用に値しない」
「うふふっ……あの男は七災の子羊の中でも最弱。うふふふ――」
藁人形を撫でながら笑ったのはツクヨ・カガリ。
地面に届きそうなほど長い黒髪が床を這っている。
その笑い声だけで空気が冷えるようだが……恐らく“最弱”と言ってみたかっただけだろう。
「確かにあの子だけ司祭だったものねぇ」
ヴォンが肩を竦める。
「ファインが司祭止まりだったのは、彼自身のスタンスによるものですよ」
ゼロサスが静かに言った。
「階級だけで実力が決まるほど、我々は単純ではありませんからね」
そう言われても、ヴォンは興味なさそうに爪を眺めているだけだった。
「それで、どうするつもりだ?」
ガルムが腕を組む。
「必要なら俺が行って潰してくるぞ。ファインごとな」
捕らえられた以上、生かしておく意味はない――そういう考えなのだろう。
「気が早いですね。ファインについては今のところ様子見です」
「甘いな」
ガルムが吐き捨てた。
「教団の情報を喋るかもしれん。生かしておく理由がない――スナイプ、お前もそう思うだろう?」
「……俺は上の指示に従うだけだ」
短く返す。
ガルムが面白くなさそうに鼻を鳴らした。
「……ファインのことなんてどうでもいい」
レムが机に頬杖をつきながら笑う。
「それより気になるのはマゼル。いいよね彼」
その目が愉悦に細められる。
「今回集まってもらったのも、その件が関係しています」
ゼロサスが指を組む。
「学園襲撃が失敗した最大の理由――それがマゼルです。今後のためにも情報共有は必要でしょう」
「くだらん」
ガルムが立ち上がった。
「だったら俺は抜ける」
「まだ話は終わってませんよ」
「……ガルの飯の時間の方が大事だ」
ガルムがぶっきらぼうに返す。
その瞬間、ヴォンが吹き出した。
「あははっ! 飯ってあの大きいペットのこと? そんな見た目してペットの方が大事とか本当笑える」
「黙れ」
ガルムの目つきが鋭くなる。
「お前らよりガルの方が余程信頼できる」
どうやら本気らしい。
ゼロサスが呆れたように肩を落とした。
「仕方ありませんね。ただ一つだけ覚えておいてください」
その瞬間、ゼロサスの空気が変わった。
「我々も好き勝手やられて黙っているつもりはありません。近いうちに“報復”を行います」
ガルムの口元が吊り上がる。
「そうか。決まったら呼べ。その時は派手に暴れてやる」
そう言い残し、ガルムは部屋を出ていった。
残された俺たちは、そのままゼロサスの話を聞くことになった――。
◆◇◆
色々とトラブル続きだった親睦会。
その影響で、数日間学園は休校になっていた。
……もっとも、その休みの間、僕たちは大量の反省文に追われていたんだけどね。
イロリ先生も校舎を離れていたけど、今日からようやく授業再開だ。
だからか、教室の空気もどこか落ち着かない。
「なぁマゼル。どう思う?」
「どうって?」
アズールに聞き返す。
「だからよ。イロリ先生、何か変わると思うかって話だ」
どこかそわそわした様子でアズールが言った。
「そうだね。とりあえず信じてみようよ」
「うむ。そうだな」
「流石にもう自習はないと思いたいけどね」
ガロンとドクトルも苦笑している。
すると――教室の扉が開いた。
「おはようございます先生!」
「マゼル。お前は相変わらず元気だな……」
欠伸混じりに答えながら、イロリ先生が教壇へ向かう。
「……なんかあまり変わってなくないか?」
「いつも通りよね」
アズールとメドーサが小声で囁き合う。
「ったく。反省文は書かされるわ、半年減給だわで散々だ。目も当てられねぇ」
「え、何か普通に愚痴り始めたよ?」
「えっと……」
「ガルゥ……」
「ピィ~……」
皆が微妙な顔になる。
そんな僕たちを見回して、イロリ先生がニヤッと笑った。
「まぁそんなわけで今日は自習――」
「そ、そんなぁ!」
「結局それか!」
ドクトルとガロンが悲鳴を上げる。
すると先生は小さく吹き出した。
「……と、いつもの俺なら言ってたところだが」
そう言って頭を掻く。
「ファインとの約束もあるしな」
そして教科書を開いた。
その姿に、自然と胸が温かくなる。
「これまで遅れた分、しっかり取り戻すからな。覚悟しとけよ」
「ハハッ! そうこなくちゃな!」
「うむ! 張り切ってついていこう!」
「わ、私も頑張る!」
「ガウ!」
「ピィ!」
「やっとまともな授業が受けられるよ」
「先生、お昼も一緒に行こうね♪」
「それもいいわね。先生に奢って貰わないと」
「教師が授業をするのは当然とお伝えします」
「…………」
皆の反応に、イロリ先生が呆れたように肩を落とした。
だけど、黒板へ向かった先生は、チョークを持つ手を少し止めて――
「……お前ら、ありがとな」
小さく、そう呟いた。
振り返らないままの言葉。
だけど、その声は確かに僕たちの胸へ届いた。
この日改めて――Zクラスは一つになれた。
そんな気がしたんだ。
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