第547話 魔力0の大賢者、騒動に決着をつける
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「勿論、お兄様が辞めるなら私も学園を辞めます!」
ラーサの声が、場の空気を震わせた。
迷いのない宣言。
その小さな背中からは、はっきりとした覚悟が感じられる。
自分の一言が、ここまでの波紋を広げるとは思っていなかった。
「マゼルが辞めるなら、私も辞めることはありえます!」
「ちゅ~!」
振り返ると、アリエルの姿。
その肩でファンファンが元気よく鳴いている。
どうやら同意してくれているらしい。
「……いやはや、これは参ったね」
軽く肩を竦めながら、ゲシュタル教授が一歩前に出た。
「流石にこれだけの人数が学園を辞めるなんて言い出したら、理事長も頭を抱えるんじゃないかな?」
柔らかな口調。
だが、その視線は冷たい。
「――それで脅しているつもりか、ゲシュタル」
リカルドの低い声。
「違うさ。これは“警告”だよ」
即答だった。
「もしイロりんを辞めさせるというなら――僕もメイリアもここを去る」
言葉を区切り、続ける。
「当然、それ相応の理由を添えてね」
空気が張り詰める。ゲシュタル教授の視線が、真っ直ぐリカルドを射抜いた。
軽口の奥にある本気。
それは誰の目にも明らかだった。
「――貴様ら、揃いも揃って……」
リカルドが吐き捨てるように呟く。
「えぇ、伯父上。本当に愚かなことだと思いますよ」
その横に、ラクナが並んだ。
淡々とした声。
だがその目は、冷静に状況を見据えている。
「マゼル、お前もだ。何を考えているかは知らんが――」
視線がこちらへ向く。
「イロリという教師が伯父上に手を上げたのは事実だ。処罰なしなどありえん」
「ラクナ……」
思わず名前を呼ぶと、ラクナはわずかに眉を寄せた。
「イロリ先生。あなたもだ」
今度はイロリ先生へ。
「まさか本気で、“教師を辞める程度で済む”と思っているのですか?」
「……どういう意味だ?」
低い声で返すイロリ先生。
ラクナは一切表情を崩さない。
「理事長である伯父上に手を上げたのだ。にも関わらず、辞めて終わり――そんな甘い話が通ると思うのか?」
「いや、そもそもクビって言い出したのはリカルドだろうが」
アズールが口を挟む。
「あんた、ちょっと黙ってなさいよ」
メドーサが小声で制した。場の空気の変化を読んだのだろう。
「伯父上は“クビになっても文句は言えない”と言っただけだ」
ラクナが淡々と続ける。
「それを勝手に拡大解釈して、揃いも揃って辞めるなど――愚かにも程がある」
「えっと……それってつまり?」
リミットが首を傾げる。
「……フン」
ラクナが鼻を鳴らす。
「簡単な話だ。辞めるかどうかは別問題だということだ」
「……ラクナの言うとおりだ」
続いたのはリカルドだった。不機嫌そうに言い放つ。だが――否定はしない。
「じゃあつまり……イロリ先生は辞めなくていいってこと?」
リミットの言葉に、
「そういうことだ」
ラクナがはっきりと答えた。
場の空気が、わずかに緩む。
「言っておくが、処罰がなくなったわけではないぞ」
リカルドが釘を刺す。
「それ相応の罰は覚悟しておけ」
「罰ぐらい、いくらでも受けてやるさ」
イロリ先生が即答する。
その目は鋭いままだった。
「だがな、リカルド――」
一歩、踏み出す。
「お前のファインへの態度は許せねぇ」
低く、押し殺した怒り。
「過去の冤罪も含めて――謝れ」
「冤罪だと? そんな話は知らん」
リカルドは一蹴した。
「ギャノンも認めた。全部あいつらの仕組んだことだ」
「――そうなのか、ウィンガル」
リカルドの視線が移る。
ウィンガル先生は眼鏡を押し上げた。
「事情を聞く限り、その可能性は高いでしょう」
冷静な声。
「しかし、現時点では確定ではありません」
「……そうか」
リカルドは小さく頷く。そして、
「ならば私の見解は変わらん」
冷たく言い放った。
「罪人として収監されていた事実も、魔狩教団に与していた事実も消えはしない」
「――てめぇ……!」
イロリ先生が一歩踏み出す。
「もういい、イロリ先生」
それを止めたのは、ファインだった。
力の抜けた声。だが――確かな意志があった。
「俺は、あんたが信じてくれただけで十分だ」
ゆっくりと顔を上げる。
「それに、これ以上揉めて……約束を反故にされても困るしな」
「ファイン……」
その一言で、イロリ先生は動きを止めた。
拳を握りしめたまま、何も言えなくなる。
そして――
「話はここまでだな」
リカルドが背を向ける。
「ウィンガル、後は任せた」
「はい。では、行くぞ」
「あぁ……」
短い返答。それが別れの合図だった。
ファインとバジルは、今度こそ連行されていく。
その背中を、誰も引き止めなかった。
やがて――魔導師団によって他の教団員も拘束され、魔獣も完全に沈静化された。
騒動は、ようやく終息へ向かう。
――長い一日だった。
そう思いながら、僕は静かに息を吐いた。
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