第540話 魔力0の大賢者、決着の一拳
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「――まだやるつもりなんだね」
ラクナを信じ、僕は視線をファインへと戻した。
ラーサの言葉に思うところはあったはずだ。
それでも――その拳に宿る黒き炎は、まだ戦いが終わっていないことを雄弁に語っている。
「――お前の妹に妹が重なった」
低く、噛み締めるような声。
「確かにサラなら、俺を止めてたかもしれない」
一瞬だけ、ファインの視線が揺れる。
だけど――次の瞬間には、それを押し殺すように強く僕を睨み据えた。
「だけどな。その程度で復讐を諦めきれるほど――俺は人間出来ちゃいない」
拳に力が込められる。
黒炎が、さらに濃く、激しく揺らいだ。
「刑務所にいる間、復讐のことだけ考えてきた」
静かに。だが確かに滲む執念。
「それだけが、俺に残された唯一の生き甲斐だった」
そこで一度、言葉が途切れる。
ほんの僅かに――迷いのようなものが差し込む。
だが。
「今更――俺の意思で止められやしない」
その迷いを、自ら踏み潰すように。
ファインは構えを取った。
「それでも俺を止めるというなら――やってみろ、マゼル!」
「……わかった。決着をつけよう」
互いに踏み込む。
同時だった。
床を蹴る音。空気が裂ける音。
そして――
リング中央で交錯する、二つの拳。
漆黒と――白耀。
闇を焼き尽くすような黒炎と、澄み渡る光のような拳。
視界が白と黒に塗り潰される。
拳が届く寸前。
ほんの一瞬だけ――
ファインの表情が見えた。
怒りでも、憎しみでもない。
どこか――救われたような顔だった。
「――っ!」
衝突。
鈍い衝撃と、骨を震わせる感触。
熱が伝わる。
それは怨嗟の熱。
そして同時に――
確かに“生きている”人間の熱だった。
拳がめり込み、互いの体が揺れる。
だが次の瞬間。
力が、抜けた。
崩れ落ちたのは――
ファインだった。
仰向けに倒れ、荒い呼吸を繰り返す。
「……聞いたぜ――大賢者」
空を見上げながら、ぽつりと呟く。
その表情は――どこか、穏やかだった。
さっきまでの険しさが、嘘みたいに消えている。
「フンッ。終わったようだな」
「ラクナ。そっちも片付いたんだね。ありがとう、助けてくれて」
「別にお前を助けたんじゃない。妹を助けただけだ」
「ははっ。そうだね」
素直じゃない物言い。
だけどそれが、今は少しだけ心地いい。
張り詰めていた空気が、わずかに緩む。
「ファイン――」
イロリ先生がリングへ上がる。
ゆっくりと膝をつき、ファインの拳を取った。
「済まなかった。俺が不甲斐ないばかりに」
「……俺はさ」
ファインが、力なく笑う。
「心のどこかで思ってたんだ」
目を閉じる。
「あんたが、生徒を見捨てるわけないってな」
「ファイン……」
「マゼルの言うとおりだ」
小さく、だがはっきりと。
「俺は心のどこかで、あんたを信じてた」
その言葉は、自嘲にも似ていた。
「だから後回しにした。復讐者としても中途半端だったわけだ」
「それは違うと思うよ」
静かに口を開いたのは、ゲシュタル教授だった。
「君は踏みとどまったのさ。それは決して弱さじゃない――強さだ」
僕も、そう思う。
復讐に全てを捧げることは簡単だ。
でも、止まることは――難しい。
「ファイン――約束する」
イロリ先生の声に、強い決意が宿る。
「ギャノンのやったことは、俺が必ず暴く。白日の下に晒してやる――勿論、あいつの協力者も全員だ」
「そういうことなら、ボクも手伝うよ」
軽い調子で割って入るゲシュタル教授。
「そっち関係はイロリンよりボクの方が得意だからね」
「だからイロリンって呼ぶな」
「あはは」
軽口に、空気が緩む。
ファインの頬も、わずかに緩んだ。
――その時だった。
空気が、変わる。
肌を刺すような違和感。
遅れて――嫌な気配。
僕は咄嗟に前に飛び出した。
直後。
眩い閃光と――爆轟。
「ギャハハハハハハ!」
響き渡る、耳障りな笑い声。
「馬鹿が! 油断しやがって!」
煙の向こうから現れる影。
「何が罪を暴くだ!」
嗤う。
嘲る。
「最後に笑うのは――この俺様なんだよ!」
戦いは、まだ終わっていなかった。
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