帰りたいけど帰れないのです
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腕の中に飛び込んで来たごんちゃんは、わたしの顔や手をペロペロ舐めました。
舐めている舌は温かくて、犬くさくて、声をあげて泣きたくなるくらいの思いが込み上げてきました。
「ごんちゃん、どおしてこんな所にいるの?まさか、死んじゃったわけじゃ無いよね?」
ごんちゃんを拾ってから数年経ちましたが、まだ老犬では無いはずです。
健康状態も悪くありませんでした。
まあ、少しぽっちゃりさんではありますが。
「ううん。わし、死んで無いよ。おかあしゃんが中々帰ってこないから、わし探しに来たんだよ。」
「ごめんね、ごんちゃん。心配かけたね。」
どうやってくることが出来たのかは謎ですが、動物には人間には無い感覚があると聞いたことがあります。
きっとその能力でここまで辿り着けたのでしょう。
甘えるように体を擦り付けてくる腕の中のごんちゃんをぎゅっと抱きしめました。
抱きしめた体はとても温かくて、いつものごんちゃんの匂いがします。
抱きしめるとごんちゃんは、わたしの顔を見て、へへと笑いました。
「見つけたから大丈夫。わしと一緒に行こう。」
嬉しそうなごんちゃんを見ていると心が痛みます。
わたしはゆっくりとごんちゃんの体を地面に降ろしました。
「ごめんね、ごんちゃん。お母さん、此処から離れられないの。」
「何で?」
ごんちゃんは心底不思議そうな顔をして、こてんと首を傾げました。
わたしはごんちゃんに今まで何度も帰ろうとして駄目だったことを話しました。
「そしてね、此処に戻った後、体全体がとても痛むの。」
死んだ後に痛みがあるのはおかしいかもしれないけど、本当に殴られたように頭がクラクラして、暴力を振るわれたように身体がだるく仕方が無いのです。
何度かそれを繰り返していると、同じ思いをしたく無くて。怖くなって。
そして、わたしが事故にあったこの場所は事故が多発するらしくて、同じように此処に留まっているモノがいます。
「此処で死んだら、ずっと此処にいなくちゃいけないんだって。他には行けないんだって。」
彼らから言われた言葉です。
もう、人の姿すら保てなくなって、黒いモヤのようになっているモノから言われました。「アンタもいずれこうなるんだよ。」て。
「ふーん。」
ごんちゃんは何やら不服そうです。
でも、こればかりは仕方がありません。
わたしは手を伸ばしてごんちゃんの頬の辺りを指で掻きました。
ごんちゃんの撫でられて好きな箇所です。嬉しそうに目を細めています。
ごんちゃんといっしょに帰りたいのは山々ですが、無理なものは無理なのです。
「来てくれてありがとう。みんなの事もよろしくね。」
「いやだ。わし、おかあしゃんといっしょに帰るって決めたんだもん。」
ごんちゃんは駄々を捏ねるように言いました。
わたしはごんちゃんをもう一度抱き上げて、ぎゅっと胸に抱きしめました。
涙が出るくらい嬉しいです。
でも、ごんちゃんにあんな目にあって欲しく無いのです。
現に、黒いモヤが集まりだして、こちらを伺っているのが分かります。
早くこの場から離れた方がいいのです。
わたしは離れがたい気持ちを押し殺して、ごんちゃんをもう一度地面に降ろしました。
「ごんちゃん、もう行きなさい。お母さん、大丈夫だから。」
「あいつらのせい?」
ごんちゃんも黒いモヤに気がついたようです。
確かにあいつらの所為ではあるのですが、ごんちゃんを危険な目にあわせたくありません。
早々にこの場から離れさせなくては。
「大丈夫だよ、おかあしゃん。わし、強いもん。わしがおかあしゃんを守るんだもん。」
わたしを守ってくれようとしているごんちゃん。可愛くてほっこりしてしまいます。
でも、和んでいる場合ではありません。
わたしは焦る気持ちの中、必死に考えます。
魔法の言葉。
ごんちゃんが言うことを聞いてくれる言葉。何かあるはずです。
「じゃあ、おかあしゃん。わし、あいつらやっつけてくるね。」
ごんちゃんはやる気満々の戦闘体制に入りそうです。
まずい。
わたしは咄嗟に叫んでいました。
「ごんちゃん、ハウス!お家に帰ろう。」
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