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おウチに帰りたいです

 交通事故で死んだ場所からも動けなくなっていたわたしを、家で飼っている犬が迎えに来てくれました。


「おかあしゃんはワシが養うからね!」

「うん、ありがとう(どうやって?)」

実年齢500歳くらい、中身は5歳児のお狐様との生活が始まりました。

 こんにちは。

 わたしは小里さと子と申します。


 今年誕生日を迎え迎えたら58歳になります。

 俗に言う『アラ還』のオバさんです。


 家族構成は夫と息子と娘がいます。

 息子は大学進学と同時に家を出ておりますので、三人の生活になっています。


 それと犬を一匹飼っています。


 白いフワフワした小さな犬で丸くなって眠っている姿はまるで毛玉のような、ちょっとポッチャリさんだけど可愛い子です。


 この子は娘が大学生になったばかりの頃、拾ってきました。


 パートから帰って来て、家の前で困惑気味に犬を抱っこしている娘を見て、デジャブを感じました。

 十数年前も長男が同じように犬を抱えて帰って来たなーと。_

 まあ、彼は有無も言わせず家の中に連れ込んで『こいつ、ウチに住むって』と宣言していましたが。

 

 その飼っていた子(犬)が天に召されたばかりで、新しい子を迎える気はなかったのですが、新生活になっり気落ち気味の娘が元気になればと思い、お迎えすることにしました。


 それは兎も角とします。

 それよりお伝えしなければいけない事があります。



 どうやらわたしは、死んだようです。



 いつ死んだかは多分、数日前だと思います。


 夕方、パートから帰ってきて夕飯を作っていました。

 ポテサラの隠し味に使っている八丁味噌が無いことに気がついてしまったのです。

 我が家のポテサラには八丁味噌は欠かせません。

 お財布を握りしめ、近くのスーパーに買いに行くことにしました。


 西日が眩しくて信号が見づらかったです。

 信号が青に変わり、横断歩道を歩いていると体に衝撃を受けて、頭が叩きつけられたような痛みがあったのを覚えています。


 気がつくと、周囲の人が大騒ぎをして、何やら叫んでいます。

 痛くて痛くて堪らなくて、話しかけて、元気づけてくれる人もいました。


 遠くから救急車のサイレンの音が聞こえて来ました。

 そこでわたしの意識は途切れてしまいました。


 気がついた時には、事故現場に立っていました。


 何があったのか、訳が分かりませんでした。


 夫や子供たちが現場にお花やお水を供えに来ました。

 一生懸命話しかけたり、気づいてくれるように色々してみたのですが、徒労に終わりました。


 それからわたしはここにいます。


 何度も家に帰ろうとしました。

 でも、帰れないのです。

 

 そんなに遠い場所ではありません。

 歩いてほんの数分のはずです。

 それなのに、気がつくとこの場所に戻って来てしまっているのです。


 事故で亡くなると地縛霊というものになると聞いた事があります。


 わたしはソレになってしまうのでしょうか。


 事故の多い場所にはそのようなモノが居て悪さをする、と聞いた事があります。

 

 わたしはこんな場所に縛り付けられて、人に害をなすようなモノに成り果てたくはありません。

 ぶっちゃけ、お化け怖いです。

 死んだなら幽霊らしく、スッパリあの世とやらに行きたいのです。

  

 進みたいのに、進めないのです。

 自分ではどうしようも出来ないのです。


 人間、生きていても死んでも大変なのですね。


 ため息しか出て来ません。

 その場に座り込んで、立膝の中に顔を埋めます。


 突然死んで、みんなびっくりしたろうな。

 ポテサラ、食べてくれたかな。

 あれが遺作になるとは思わなかった。

 一寸先は闇ってあるけど、一寸先は地縛霊なんて考えた事なかった。


 アホな、いえ取り留めのないことをつらつらと考えます。

 

 ここは昼間でも薄暗くてとても冷えます。

 冷えるというか、空気がとても冷たく、どんよりしています。

 そして、誰かにいつも見られているような気持ちの悪さがあります。


 わたしはずっとここから動けないのでしょうか。

 


「おかあしゃん、見つけた!」


 顔を伏せて、泣きたい気分で座っていると、甲高い、幼子の声が聞こえて来ました。


 わたしを母と呼ぶのは基本うちの子供達です。でも彼らは大きくなり、この声の持ち主ではないはずです。


 顔を上げてみると、尻尾をはち切れんばかりに降る白い犬がいました。


 まさか、この子。


「ごんちゃん?」


 目の前に現れた白いモフモフは嬉しそうに飛び付いてきました。

 

  

 

 

 


 

お読み頂きありがとうございました。



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