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護界殺刀

「今から学んでもらうんは、護界殺刀っちゅう武術や。真伍の修羅意拳、それから万武盟の大半が扱う百獣真伝に並ぶ武術でな……その本質は、“護る”ことにある」


「護る……」


「せや。護界殺刀――第一の誓い、定界(ていかい)。第二の誓い、即断(そくだん)。第三の誓い、一殺(いっさつ)。第四の誓い、無根(むこん)。第四の誓い、残身(ざんしん)


 五つの誓い……。たしか、修羅意拳も五つの型だったか。


「護るべき界を見定め、越境の瞬間に思考を終わらせ、必ず一撃で殺す。そして、恨まれることを厭わず、殺した後も護るため生き続ける。それが、護界殺刀や」


「一撃で殺す……」


「せや。修羅意拳が殺しを肯定し、殺し続ける武術なのに対し、護界殺刀は護るため迷いなく殺すための武術。殺しに酔わず、殺しから逃げないことが重要や。お前は……護るために殺し、生き続ける覚悟があるか、真昼」


 問いかけられて、一瞬口を噤む。


「――……わかりません」


「……ま、嘘つかれるより、正直な方がウチは好きやで」


「けど。……護りたい。護るために殺す覚悟を決める覚悟ってやつは、できます」


「……ええ答えやないか。よし、ほな始めよか」


「はい!」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 修行は、思ったより順調に進んだ。


 最初は、アエルとの鬼ごっこから始まった。


 体力のなかった俺は、初めは数秒で捕まるくらいだったが、スキルである超回復と湖の力で体力はみるみるついていき、身体能力も上昇したように思える。


 毎日森を走り込んでいるうちに、どこを走れば最短で撒けるのか、思考する余裕もできてきた。


 二週間が経った今ではアエルとの鬼ごっこは数分続くようになっていき、意表をつける回数も増えていった。


 レオニーに筋トレのメニューを組んでもらい、それを毎日やるのは骨が折れたが、なんとかやっている。


 毎日山盛りのご飯を食べているからか、筋肉もだんだんと付いてきたような気がする。


 そして今日は、最長記録である十分を超えたタイミングで俺の体力が切れ、足がもつれた瞬間にアエルに捕まり、鬼ごっこが終了した。


「よし。よう頑張ったな真昼。今日の鬼ごっこは、これでしまいや」


「は、はい……」


「まひる、早くなったよねえ。ぼくも疲れたよ」


 ぐで、と寝転ぶアエルの腹に顔をうずめ、俺も息を整える。


「せやけどな、今日は休んでる暇はないで。……次の段階に進む」


「次の……段階?」


「シルヴァリオンと相談しとってん。お前の特殊な能力を扱うには、どんな修行がいいか」


「俺の……ってことは、スキルとか、そういうのですよね?」


「せや。シルヴァリオンが提案してくれた案を、使うことにした。お前、いっぺん狼になってみい」


「……へ?」


 レオニーが言うには、こういうことだった。


 俺のスキルやステータスといった概念は、白狼やアエルといった、ダンジョンのモンスターと同じもの。


 そして、俺の存在は白狼曰く、モンスターと同じような存在になりつつあるらしい。


 だから、もしかしたら白狼やアエルのような“能力”……つまりスキルが使えるようになるかもしれない。いや、なるはずだ、というわけだ。


 今日までの鬼ごっこや筋トレで、体の基礎は想定したよりも早く基準を満たしたらしい。白狼曰く。


「じゃあ、狼になれっていうのは……」


「シルヴァリオンたち大白狼の一族には、変身(ポリモーフ)っていうのがあるらしくてな。それを応用して、お前も狼……まあ厳密にいうと、狐の姿になって大白狼の積む修行を、ついでにアエルと一緒にやってもらおうっちゅうわけや」


「はあ……なるほど。でも、俺には変身(ポリモーフ)というスキルは……」


 使えないんじゃ、と言葉に出した瞬間、レオニーが俺になにかを被せた。


「? これは……」


「狐の毛皮」


「え!?」


「狼の毛皮は見つからへんかったさかいな。代わりに狐でいくことにした。……シルヴァリオン、頼むわ」


「ああ。坊や、こっちを見て」


 いつもより熱を感じる声に、俺は白狼を見る。


 白狼の目が、青く燃えている。


 これは……。


 もしかすると、俺の中に通っている、魔力にチャンネルを繋げられている?


 その瞬間、狐の毛皮が俺に同化するような、そんな感覚に襲われる。


 遠い森の匂いと、血の記憶。


 心臓の鼓動が響くたびに、指先の感覚が変わり、視界が研ぎ澄まされ、匂いが色のように見え始める。


 ――気づいた頃には、四足で土を踏みしめていた。


「すごい……ほんとに、俺が狐になってる」


「驚いた。ほんまに成功するとは……」


 その言葉に、確信はなかったのか、と少し焦る。


 これで失敗して、俺が本当に狐になっていたらどうしていたんだか。


「ほな、真昼は頼んだで、シルヴァリオン。ウチはちょっと行くところあるさかい……真昼、終わるころには迎えに来る」


「わかりました、師匠」


「おう。ほなな」


 レオニーが去るのを見送り、白狼とアエルを見上げる。


 アエルは俺の人間すがたと同じくらいの大きさで、白狼はその三倍ほど。


 対して俺は、普通の狐よりも少し大きいくらいで、並ぶと差がひどい。


「さあ、始めようか坊やたち。まずは、水面を歩く練習からだ」


「ぼくはできるよ!」


「そうだね。手本を見せておやり」


「うん!」


 アエルがいきいきとした表情で、湖に向かう。


 その瞬間、アエルの体の中心に、青い火が灯っているように見えた。


 見間違いではない。


 たしかに、なにかが見えている。


「見えるかい、坊や。あれが、お前の体にも宿る魔力だ」


「これが……魔力」

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