魔力
「アエルの魔力は何色に見える?」
「え? 青い……火のように見えます」
「そうか、わしと同じだね……。坊や、魔力とはなにか、わかるかい?」
「物語で語られた知識程度なら……えっと、たしか」
魔力とは……覚醒したダイバーや、モンスターなどに宿る生命力が具現化したものである。
通常の生命力は体内で循環して、肉体を維持するだけの抽象的なエネルギーに過ぎない。
しかし、覚醒を経た人間やモンスターにとっては、その枠に収まるものではない。
生命力が外側に溢れ出し、形を持つのである。
つまり魔力とは、内なる生が外界に滲み出たものである、ということだ。
「うん、大体は合っているね」
「大体は?」
つまり……これ以上のなにかが、あるということか?
「まず魔力とは、抽象エネルギーではなく、人格や本質を表した象徴として現れるんだ」
「象徴……ですか」
「たとえばわしら大白狼の一族は……昔、ただの小さな灯火だったと言われている。だから、魔力の形も、扱える能力も、火になる」
「シルヴァリオンやアエルは、もともとは火だったんですね。……あれ、でも、それにしては水の上を歩けたり、平気で泳いだりしますよね」
「それは、火と水が相反する存在だからだ。互いに反発し合うからこそ、摩擦が起き……この湖の中では、息が吸えるだろう?」
「あ……なるほど」
小さな反発が摩擦となって、空気が入る隙間を作っているのか……つまり、この湖は水と火が共存しているんだ。
「さて……魔力の説明に戻ろうか。では坊や、魔力に上限があるのは知っているかい?」
「それは、魔力の成長に上限がある……ということですか?」
「ああ、その通り。魔力とは――“魂の質量”なのだ」
「魂の質量……」
「生まれ持った魂の器、といった方がわかりやすいかい?」
「あ……わかります、なるほど……そういうことか。つまり、魂とは風船で、魔力とは空気なんですね」
「うむ。魂が重い、つまり大きい存在ほど魔力は成長する。そしてその風船は決して割れることも成長することもなく、ただ空気を溜めておく器に過ぎない」
「魂は生まれた時にすでに決まっているから……でも……あれ?」
「どうしたんだい、坊や」
「シルヴァリオン、俺はどうなるんでしょう? 俺は、玖我真昼としての魂と、前の俺としての魂を持っていることになりませんか」
「坊や、お前の魂は、たしかに二重構造になっている」
「そんな……それじゃあ、どうなるんですか?」
「だが……玖我真昼の魔力は、未だ目覚めていない」
「目覚めてない……あ、つまり、玖我真昼が原作よりも早く覚醒したっていう……それ自体が、間違いだったってことですよね?」
「詳しくいうのなら、坊やが玖我真昼になる前の魂が、覚醒しているようだ」
……そういうことだったのか。
やけに覚醒が早いと思ったのは、そういうこと。
……待てよ。ダンジョンやモンスターは、物語の最終局面で、外界から来た侵略者であるということが明かされる。
もしかすると……外界から来た侵略者という部分だけ見たら、俺もほぼモンスターみたいなもんじゃないか。
そういうことか!
だから俺が玖我真昼に成り代わった瞬間、いや、玖我真昼になったのだと、俺の意識が覚醒した瞬間、スキルが現れたんだ。
しかも、それは玖我真昼のスキルじゃない……俺の、俺の魂が覚醒したスキルなんだ。
「どうやら腑に落ちたらしいね」
「はい。理解できました」
「アエル、戻っておいで。坊やにやり方を教えてやるんだ」
「え、でも、俺の魂の形が火であるという保証は……」
「やってみなさい。すぐに、わかるはずだ」
アエルが俺のお尻を押して、湖に落とそうとする。
俺はなんとか踏ん張りながら耐えた。
「自分で行くから、大丈夫だって」
「ほんと? ならいいけど」
「教えて、どうやったのか」
「うん!」
アエル曰く。
自分の中にある魔力を感じ取り、それをぎゅっと収縮させ、細い糸として体中に巡らせるだけらしい。
……だけ。だけ、ね。
そもそも、魔力を感じ取るのが難しんだけど。
「魔力はどうやって感じ取ればいい?」
「そこにあるから、あるものを感じ取ればいいいんだよ?」
「……天才型め……」
白狼に助けを求めると、白狼はあくびをしながら俺の頭に優しく手を置いた。
「坊や、思い出して。さっきはアエルの魔力は見えただろう? 同じことを、自身を見つめながらするだけさ」
「自分を……見つめる……」
目を瞑り、自分の音に集中する。
真っ暗だ。
真っ暗な中、奥から弱い光が見える。
もう少し。
もう少しで届きそうだ。
もう少しで……!
――届いた!
「真昼! 夕飯の時間や。もう終わりにしとけ」
その声に、はっと我にかえって目を開ける。
俺の外側は、もう暗くなり始めていた。
「よ、夜……?」
「まひる、すごい集中力だったよ! びっくりしちゃった」
「なにか掴めたようだね、坊や」
「あ……はい」
最後、朧げながら掴んだのは――。
「黒。黒い、光でした」




