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魂の本質

「黒い光?」


「はい。あ、師匠こんばんは」


「おう。なんや、なにか掴めたみたいやないの。黒い光っちゅうんは、なんのことや?」


 あ……そうか、レオニーはまだ、魔力についてよく知らないのか。


 彼女にとっては未だ、白狼やアエル、そしてふだん討伐しているモンスターたちの力であるだけにすぎないから……。


「魔力のことです。詳しいことはあとで、俺から説明しますが……今は、俺の中に通う魔力の形を確かめていたんです」


「ほお。それが、黒い光?」


「黒い光は、おそらく片鱗だね」


「片鱗?」


「他者が己の魔力を見た時と、己自身が魔力を見た時の印象は異なるというのが普通だ。たとえばわしは、坊やたちからどう見える?」


「……青い大きな炎に見えます」


「ぼくのよりおっきいの?」


「ではアエル、己の魔力を感じ取ってみなさい。お前はできるはずだから」


「うん……」


 アエルが目を閉じて、集中する。


 アエルの体の中心に、青い火が灯る。


「……木。おっきな木が、燃えてる。でも……うれしそう……?」


「木?」


「アエル、もういいよ」


「うん!」


「なにが見えたか、細かく説明しなさい」


「はーい。えっとね、自分の魔力に集中したら、なんかおっきな空間? みたいなのが見えたんだ。そこはここみたいに明るくて美しくて……けど、木が燃えてたんだ。青い炎が舞い上がってた。でも、よくわかんないんだけど、燃えてるのが嬉しそうだった」


「それが、アエル。お前の魂の本質だ」


「へー」


 ……こんな話、作中でも聞いたことがない。


 いや、モンスターと対話を試みていれば、もしかしたら合ったのかもしれないな、そんな描写が。


 だが……作中に出てきたモンスターたちは、白狼やアエルのように対話できる知能を持っているとは思えなかったものばかりだったはずだ。


 ただ目の前の敵を倒し殺すことだけを考えた殺戮マシーンのような描かれ方をしていた。


「まあ……なんでもええけどな。とりあえず、いっぺん帰らんか? 夕飯の時間や」


「あ……はい、すみません。えっと……」


 レオニーを見る。首を傾げられる。


 アエルを見る。首を傾げられる。


「……戻り方って」


「ああ、すまないね。忘れていたよ」


「俺にとっては結構重要なことなんですが……」


「自分の魔力はもう動かせるようになったかい」


「あ……はい、若干、ですけど」


「開ききっていないからだろう。まあその少量の魔力で構わないから、全身が人間の形になるように意識しながら、魔力を循環させてみなさい」


「はい」


 魔力を循環……この砂利みたいな魔力たちを……動かして……全身に……。


 人間、俺は人間、人間……。


 魔力をなんとか循環させていると、徐々に匂いの色が遠のく。骨格が変わり、大きさが変わる。


 やがて俺は、もとの姿に戻っていた。


「戻れた……」


「毛皮はどこやったんや」


「あれ? そういえば」


「吸収されたんだろうねえ。これからは、同じ要領で変身(ポリモーフ)できるだろうさ」


「え……じゃあ、毛皮持ってくればなににでもなれるんですか」


「まさか。今回たまたま狐と相性がよかっただけさね。それに、あまり変身(ポリモーフ)の選択肢を増やし過ぎても、パンクしてどれが本当の姿だったかわからなくなるだけだから、気をつけるんだよ」


「そんな危険性あるんだこれ……わかりました、気をつけます。狐に変身する分には、大丈夫でしょうか?」


「もう融合しちまったからねえ……魂の抜けた毛皮だったから、大丈夫だろうよ」


 それはなんか……魂が抜けてないと大変なことが起きるみたいなアレでは……。


 いや、みなまで聞かないでおこう。


 今日で魔力の……いや、俺の魂の本質の片鱗が掴めた。明日は、かならず全貌をつかんでやる。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 今日も昨日と同じように、狐に変身(ポリモーフ)する。


 匂いが見えるこの感覚は慣れないが、研ぎ澄まされているのは悪くない感覚だ。


「今日はウチも暇だから横におるで。今日は、それぞれ鍛錬の日や」


 レオニーは仕事がひと段落したらしく、今日は最初から最後までいるようだ。


 とはいっても、いまは俺と白狼、そしてアエルの修行の場なため、レオニーは離れたところで樹種的に鍛錬をするらしい。


 そちらも気になるところだが……とにかく、今日は魂の本質を見つけてやる。


「さあ、自分の魔力に集中しなさい」


 白狼の声とともに、意識が深いところまで落ちていく。


 ……あった、黒い光。今日はすんなりここまで到達できた。


 一度魔力を全身に通したからか、今日はかなりスムーズだ。


 暗い道を四つ足で走る。


 光がだんだんと大きくなっていく。


 さらに近づく。


 集中。


 さらに……もっと……あと少し……!!


 ――たどりついたのは、モノクロの世界だった。


 荒れ果てて草木のない地に、ドス黒い色をした湖。そして……湖のほとりに鎮座する、四つ足の黒い獣。


 俺が見たのは、あの獣の瞳の光だ。


 死んだようなこの世界で、唯一、あれだけが生きているようだった。


 四つ足の獣に近づく。


 ……ああ、黒い狐だ。


 真っ黒の狐。


 だから、俺と狐の毛皮は相性がよかったのか。


 この狐は……俺だから。


「お前は、一度死んだんだな。俺と一緒に……」


 ひとつも鳴かず、頭だけすり寄せてくる狐の頭を撫でる。


「ありがとう。……もう少し頑張ってくれ。もうすぐだ。もうすぐ、あとちょっとで……玖我真昼の魂が目覚めるはずだから」


 そう言って、その世界は遠のいていった。


「――坊や」


「……俺の本質は、暗闇で、モノクロでした。多分、一度死んでるからです。その中に、まだ生きている真っ黒な狐がいた……」


「それが、お前の魂の形だね」


「……はい」

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