シルヴァリオン
レオニーの後を追い、森の奥まで向かう。
鬱蒼とした森の中は、手入れされているような森では一切なく、草や枝で足に切り傷を作りながら奥に進んだ。
「止まれ」
「わ、は、はい」
突然声を上げたレオニーに驚きながら、言われた通り立ち止まる。
レオニーの顔を見ようと顔を上げた瞬間、俺の目に入ったのは、美しい光景だった。
小さな丘に日差しで金色に輝く大木。その周りには水面があり、すぐに飲めそうなくらい透き通って綺麗だった。
「来るで」
「はい」
すると大木の影から、大きな白いなにか……いや、あれは、大きな狼が、のしのしとこちらに向かってやってきた。
「――レオや。そこの坊やはなんだい」
大きな白狼が声を発した瞬間、木々がりんりんとざわめいた。
白狼の足元をよく見ると、足がふれた地面の箇所には花が咲き、それがするりと蕾に戻ってなくなっていった。
「ウチの弟子になる子や。これから……護界殺刀を学ぶ」
「弟子かい。久しぶりだねえ……前の弟子は、どうなったんだい」
「あんたに認めてもらえへんかったさかい、不貞腐れて出ていってもうてなあ……そのまま、死んでしもたわ」
「そうかい……それから、何年経った」
「もう十年や。十年ぶりの弟子なんやさかい……最後の修行のときは、ちょっとは手加減したってくれや」
「くくく……心にもないことを」
「真昼、挨拶せえ」
二人の会話に圧倒されていると、レオニーに背中を押されて前に立つ。
「玖我真昼と申します。よろしくおね――!」
瞬間、白狼が大きく飛び跳ねる。小さな湖を軽々と飛び越え、いつの間にか俺の鼻先にいた。
「わっ! っ、て……」
思わず尻餅をつく。
「真昼、じっとしとき」
「うっ、は、はい……!」
目の前で鼻がひくひくと動き、すうっと匂いを嗅がれる。
かと思えば、白狼はその大きな口を開け――べろり。
俺の顔をよだれだらけにしていった。
「あ……あの……?」
「ふむ……ふむ……」
なにか考え込むように座って明後日の方を向いた白狼を横目に、レオニーの手を借りて立ち上がる。
「お前、人間とは違ういい匂いを漂わせているね」
「え?」
「この世界の人間に違いはないが……わしらと同じ匂いがするねえ」
「シルヴァリオン、それはどういうことや?」
「さあ、わからぬ」
「わからぬって……」
「あ、あの」
服で顔を拭いながら、二人の会話に割って入る。
「理由、わかる気がします」
「ほお……いってみなさい、坊や」
「……えっと、シルヴァリオンさん? は……ステータスやスキルといったものは、ご存知ですか?」
そういうと、白狼がくわりと目を見開く。
「まさか、坊や、お前にもあるというのかい」
「……はい」
「これは驚いたねえ」
「シルヴァリオン、どういうことや。真昼の体に、何が起きとる?」
「その前に俺から、伝えなきゃいけないことがあります。本当は、落ち着いたら話そうと思ってたんですが……今話した方が、良さそうなので」
そして俺は、真伍にも話したすべてのことを、いちから二人に話した。
「……なんと」
「戦いが始まる……まさに、そないなことやな」
「信じて、くれますか」
真伍が信じてくれたとはいえ、レオニーが信じてくれるという保証はない。
「信じるに決まっとるやろ」
しかし帰ってきたのは、そんなあっさりとした言葉だった。
「つまりわしらは物語とやらの中の存在で、坊やが主人公というわけか」
「だから驚いたんです。もうすでにこの世界に、ダンジョンがあるなんて……」
「それについては、ようわからんけど……とにかく、それに備えるために、もっと力つけなあかんな」
にやりと笑って腕をぐるぐるさせる姿は、次の戦いにわくわくしている戦士そのもので、少しおそろしい。
「そうと決まれば真昼、はよ服脱いで、湖に浸かれ」
「え?」
「この水にはな、筋肉の超回復を促したり、肉体を強うしたりする効果があるんや。そないなひょろひょろした体やったら、すぐへばるやろ。せやから、稽古はここですんねん」
「わ、わかりました」
いそいそとパンツ一枚の姿になると、レオニーから頭を叩かれる。
「パンツも脱げや。子供のもんなんて、誰も気にせえへんさかい」
「お、俺が気にしますよ……前だけ隠させてください……」
「……しゃあないな。ほれ、タオルでも巻いとけ」
そういって、レオニーさんが持っていた袋から白いタオルを取り出し、俺の方に投げた。
それをキャッチして腰に巻いてパンツを脱ぎ、服の上に畳んでおく。
「泳いでもええけど、とりあえず五分は入っとけよ」
「わかりました!」
そう答えると、レオニーは白狼と一緒に少し離れていった。
俺が湖に足をつけると、後ろからぬっと現れたなにかが、足で俺の体を押す。
ぼちゃん! と音を立てて俺が底まで落ちると、白狼も俺を追って湖に飛び込んだのが見えた。
――あれ?
そういえば、目を開けてもちっとも痛くないどころか、息が吸える?
「そうだよ。この中では、息が吸えるんだ!」
白狼――いや、さっきの白狼じゃない!
「お前は……!?」
「ぼくは母さんの子どもだよ! 今日はほんとは来ちゃダメだって言われたんだけど、来ちゃったんだ!」
「母さんって……ボスの子ども!?」
そんなわけ……いや、ありえない話ではないのか?
ダンジョンの中では生態系が作られているようだったし、そうとなればボスだって成長したり、老いたり、生まれたりするのはおかしくない……のだろうか。
原作ではダンジョンは完全なる悪で、すぐにクリアして崩壊させるというのが決まりだったはずだから……原作にはそういう設定が出てこないのは違和感はないが……。
「僕はアエル。君はなんていうの?」
「お、俺は、玖我真昼。真昼っていう」
「まひる! よろしくね、まひる!」
しかし屈託のない笑顔にほだされるのは、あっという間だった。




