表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/16

会津レオニー

 翌日。


 俺は新幹線に乗って、とある団子屋に訪れた。


 平日だからか人はおらず、店先で団子をほうばる、筋肉質な女性ひとり。


 筋が浮き出るほど鍛錬された身体。ぴちっとしたインナー姿でいるからか、背中に走る筋肉の起伏がはっきりと見える。


 そしてなにより――身体中に走る、裂傷の痕。


 そうか、彼女が……。


 俺は、真伍が息絶える瞬間の原作にもない、アニメオリジナルの回想シーンを思い出した。


 彼女が――真伍健一が愛した女性であり、生涯のライバルだ。


「――ん? なんや、さっきからウチの方ばっか見て。なんか言いたいことでもあるんやったら、早よ言い。用もあらへんのに見とるんやったら……あんまりええ趣味やないで」


「あっ……俺は、玖我真昼と言います。真伍さんからの紹介で来ました」


「真伍? なんであいつが……まあ、どうでもええわ。それより、紹介言うてた話やな。どういうもんなんか、詳しゅう教えてもらおか」


「あ……その前に、伝言が」


「伝言?」


「戦いが始まろうとしている、と、お伝えしろと」


「――! 戦いが始まる、やて? なるほどな、そういう算段か。ほなつまり――お前、ウチの弟子になりたいって、志願しに来たっちゅうわけやな?」


 真伍と彼女の言う「戦い」になにが含まれているのかはわからないが――とにかく、話が早いのは助かる。


「はい、その通りです。最初は、修羅意拳を学ぼうと真伍さんのもとを訪れたのですが、その、俺にはあなたの方が合うだろう、って」


「修羅意拳を学ぼうとした、やて?……まだそんなアホおったんかいな。ふん、面白いやないの。とりあえず、話でもしよか。――そこ、座り」


「あ……はい」


 促された通りに、隣に座る。


「団子は?」


「え、あ、好きです。食べます」


「奢ったるさかい、ちょい待っとき。……彩葉(いろは)! 団子出したりな。客や」


「はーい! すぐ用意します! ちょっと待っててくださいね」


 ひょこっと顔を出した、俺よりも小さい小学生か同い年くらいの少女が、にっこりと笑って言った。


「彼女は?」


「この団子屋な、ウチのお店なんやけど。親戚がいきなり押しかけてきて、置いていきよってな。せやから、学校行かせる代わりに、店の面倒見てもろてるんや」


「へえ……つまり、娘さん?」


「娘……まあ、そういうことになるわな。あの子も不憫な子でなぁ……両親は早うに亡くしてしもて、そのあと面倒見てくれる親戚もおらへんかったさかい、あちこちたらい回しにされてな。結局、ほとんど縁切りみたいな状態で、ここに来よったっちゅうわけや」


「それは……ひどい話ですね」


「彩葉が三つのころやった。三つやで? そないなちっこい女の子がな、こう言いよったんや」


 ため息を吐きながら、彩葉の方を見やる。その視線には同情が混じっているが、ほとんどは親のような、慈しみの表情だった。


「迷惑かけてごめんなさい。捨てんといてください、ってな」


「……」


 思わず黙り込む。原作には、真伍のライバルである彼女に娘がいたなんてこと、書いていなかった。


 そもそも存在すら回想シーンのみのキャラクターだ。


 真伍のライバルとまでも呼ばれる彼女が、原作のような世界で覚醒しないわけがない。


 つまり……彼女の死が、真伍の修羅意拳を完成させるきっかけか?


「お待たせー! 三色団子です。あ、お母さん〜? お団子のおかわりは今日はもうだめだからね」


「いや……あと一本だけや。頼む」


「だーめ! お客さんは気にしないで食べてくださいね! ここの団子、ほんとに美味しいですから!」


「ありがとうございます。いただきます」


「お茶はサービスです!」


 冷たいお茶が喉を潤す。


 そこに甘い三色団子をほおばると……ああ、だめだこれ、うますぎる。


「うま……」


「でしょ? なのに、お客さんあんまり来ないんです。なんでだと思います? やっぱり……」


 彩葉がちらりと眼を向ける。


「お母さんが店先で、いっつも睨みきかせてるからだと思いません?」


「え、あー……はは……」


「彩葉、あほなこと言うてへんで、店の中戻り。ウチは玖我くんと、ちょいと話があるさかい」


「はーい……」


 すごすごと引っ込んでいった少女に、俺は思わず苦笑する。


「ええ子なんやけどな。ちょい好奇心旺盛すぎる言うか、人懐っこすぎる言うか……まぁ、そんなとこや」


「はい、いい子だと思います」


「……あ、そういや自己紹介がまだやったな。ウチは会津(あいず)レオニーや」


「え、日本人ではないんですか?」


「ただのクォーターや。ほぼ日本人やし、別にあっちの言葉が喋れるっちゅうわけでもあらへん」


 なるほど……この人の赤毛は、地毛ってわけか。


「で……あんたは何を目的に強うなりたいんや?」


 その言葉に、昨日真伍に語った言葉が思い起こされる。


「……好きな人たちを、守りたいんです」


「ほぉ。好きな人ら、かいな。……女か? まさか、囲うてるんやないやろな?」


「この歳でそんなことしませんよ! 俺はまだ13です……」


「ははっ、冗談や。まあ、“守りたい”って、その目で言えるんやったら……文句はあらへんわ」


 その言葉に、思わずほっと息を吐く。


「学生っちゅうことは、今は夏休みか。ほな、家はどこにあるん?」


「今日は新幹線で来たので……」


「新幹線!? そらまた、えらい遠いところからきよったな。家の方は、ちゃんと片付けてきたんか?」


「あ、一応……どのくらい説得に時間がかかるかわからなかったもので……」


「確かに、そないやな。……うん、よし。玖我くん、夏休みの間は、ウチの家に泊まったらええ。すぐにでも稽古つけたるさかい」


「本当ですか!」


「嘘なんて言わへんよ」


 ふっと笑ったレオニーが俺の皿の上の三色団子をすべてほおばって、店に向かって吠えるように声をかけた。


「彩葉! 話はついたで。しばらく家にこの子泊めるさかい、今日は店閉めて、部屋の掃除しといてくれ」


「え、どういうこと!?」


「ウチの久しぶりの弟子や。丁重にもてなしたってな」

追記2026/2/12 彩葉の口調を関西弁から標準語に訂正。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ