会津レオニー
翌日。
俺は新幹線に乗って、とある団子屋に訪れた。
平日だからか人はおらず、店先で団子をほうばる、筋肉質な女性ひとり。
筋が浮き出るほど鍛錬された身体。ぴちっとしたインナー姿でいるからか、背中に走る筋肉の起伏がはっきりと見える。
そしてなにより――身体中に走る、裂傷の痕。
そうか、彼女が……。
俺は、真伍が息絶える瞬間の原作にもない、アニメオリジナルの回想シーンを思い出した。
彼女が――真伍健一が愛した女性であり、生涯のライバルだ。
「――ん? なんや、さっきからウチの方ばっか見て。なんか言いたいことでもあるんやったら、早よ言い。用もあらへんのに見とるんやったら……あんまりええ趣味やないで」
「あっ……俺は、玖我真昼と言います。真伍さんからの紹介で来ました」
「真伍? なんであいつが……まあ、どうでもええわ。それより、紹介言うてた話やな。どういうもんなんか、詳しゅう教えてもらおか」
「あ……その前に、伝言が」
「伝言?」
「戦いが始まろうとしている、と、お伝えしろと」
「――! 戦いが始まる、やて? なるほどな、そういう算段か。ほなつまり――お前、ウチの弟子になりたいって、志願しに来たっちゅうわけやな?」
真伍と彼女の言う「戦い」になにが含まれているのかはわからないが――とにかく、話が早いのは助かる。
「はい、その通りです。最初は、修羅意拳を学ぼうと真伍さんのもとを訪れたのですが、その、俺にはあなたの方が合うだろう、って」
「修羅意拳を学ぼうとした、やて?……まだそんなアホおったんかいな。ふん、面白いやないの。とりあえず、話でもしよか。――そこ、座り」
「あ……はい」
促された通りに、隣に座る。
「団子は?」
「え、あ、好きです。食べます」
「奢ったるさかい、ちょい待っとき。……彩葉! 団子出したりな。客や」
「はーい! すぐ用意します! ちょっと待っててくださいね」
ひょこっと顔を出した、俺よりも小さい小学生か同い年くらいの少女が、にっこりと笑って言った。
「彼女は?」
「この団子屋な、ウチのお店なんやけど。親戚がいきなり押しかけてきて、置いていきよってな。せやから、学校行かせる代わりに、店の面倒見てもろてるんや」
「へえ……つまり、娘さん?」
「娘……まあ、そういうことになるわな。あの子も不憫な子でなぁ……両親は早うに亡くしてしもて、そのあと面倒見てくれる親戚もおらへんかったさかい、あちこちたらい回しにされてな。結局、ほとんど縁切りみたいな状態で、ここに来よったっちゅうわけや」
「それは……ひどい話ですね」
「彩葉が三つのころやった。三つやで? そないなちっこい女の子がな、こう言いよったんや」
ため息を吐きながら、彩葉の方を見やる。その視線には同情が混じっているが、ほとんどは親のような、慈しみの表情だった。
「迷惑かけてごめんなさい。捨てんといてください、ってな」
「……」
思わず黙り込む。原作には、真伍のライバルである彼女に娘がいたなんてこと、書いていなかった。
そもそも存在すら回想シーンのみのキャラクターだ。
真伍のライバルとまでも呼ばれる彼女が、原作のような世界で覚醒しないわけがない。
つまり……彼女の死が、真伍の修羅意拳を完成させるきっかけか?
「お待たせー! 三色団子です。あ、お母さん〜? お団子のおかわりは今日はもうだめだからね」
「いや……あと一本だけや。頼む」
「だーめ! お客さんは気にしないで食べてくださいね! ここの団子、ほんとに美味しいですから!」
「ありがとうございます。いただきます」
「お茶はサービスです!」
冷たいお茶が喉を潤す。
そこに甘い三色団子をほおばると……ああ、だめだこれ、うますぎる。
「うま……」
「でしょ? なのに、お客さんあんまり来ないんです。なんでだと思います? やっぱり……」
彩葉がちらりと眼を向ける。
「お母さんが店先で、いっつも睨みきかせてるからだと思いません?」
「え、あー……はは……」
「彩葉、あほなこと言うてへんで、店の中戻り。ウチは玖我くんと、ちょいと話があるさかい」
「はーい……」
すごすごと引っ込んでいった少女に、俺は思わず苦笑する。
「ええ子なんやけどな。ちょい好奇心旺盛すぎる言うか、人懐っこすぎる言うか……まぁ、そんなとこや」
「はい、いい子だと思います」
「……あ、そういや自己紹介がまだやったな。ウチは会津レオニーや」
「え、日本人ではないんですか?」
「ただのクォーターや。ほぼ日本人やし、別にあっちの言葉が喋れるっちゅうわけでもあらへん」
なるほど……この人の赤毛は、地毛ってわけか。
「で……あんたは何を目的に強うなりたいんや?」
その言葉に、昨日真伍に語った言葉が思い起こされる。
「……好きな人たちを、守りたいんです」
「ほぉ。好きな人ら、かいな。……女か? まさか、囲うてるんやないやろな?」
「この歳でそんなことしませんよ! 俺はまだ13です……」
「ははっ、冗談や。まあ、“守りたい”って、その目で言えるんやったら……文句はあらへんわ」
その言葉に、思わずほっと息を吐く。
「学生っちゅうことは、今は夏休みか。ほな、家はどこにあるん?」
「今日は新幹線で来たので……」
「新幹線!? そらまた、えらい遠いところからきよったな。家の方は、ちゃんと片付けてきたんか?」
「あ、一応……どのくらい説得に時間がかかるかわからなかったもので……」
「確かに、そないやな。……うん、よし。玖我くん、夏休みの間は、ウチの家に泊まったらええ。すぐにでも稽古つけたるさかい」
「本当ですか!」
「嘘なんて言わへんよ」
ふっと笑ったレオニーが俺の皿の上の三色団子をすべてほおばって、店に向かって吠えるように声をかけた。
「彩葉! 話はついたで。しばらく家にこの子泊めるさかい、今日は店閉めて、部屋の掃除しといてくれ」
「え、どういうこと!?」
「ウチの久しぶりの弟子や。丁重にもてなしたってな」
追記2026/2/12 彩葉の口調を関西弁から標準語に訂正。




