スキル
日付は六月七日。中学生になってすぐ、ってところか。
原作通りなら俺はこのままこの一軒家で一人暮らしを始めるわけだが……面倒なのは掃除くらいか。
前世では一人暮らしをしていたし、料理もできるのでそこは安心。
腹の部分の服をめくり、傷に触れる。
ピリピリと痛むが、そこにあるのは青タンではなく、黄色くなった痕だった。
「やっぱり……なんか変だと思ってたんだよな」
回復速度がおかしい。
まるで、原作序盤の主人公のスキル〈超回復〉の効果みたいだ。
このスキルは文字通り自分の体の回復速度を早めるスキルで、終盤では欠損した腕すら一時間で治るまさに超的な回復をしてくれる。
もちろんなんども傷ついて育てていかなきゃいけないスキルなんだが、使い勝手はかなり良さそうだ。
……とまあ、ここまで語ってきたが。
そもそもこの世界、まだダンジョンや、ステータス、スキルという概念が生まれる前の時期のはずだ。
それがなんで、俺にスキルがある?
試しにやってみるか……。
「ステータス表示」
[ステータスを表示します]
[初めての試みのため、時間を要しています]
[…………完了しました]
[ステータスを表示します]
[ステータス]
[名前:玖我真昼] [レベル:2]
[職業:なし] [称号:なし]
[HP:115] [MP:58]
[スキル]
・超回復Lv.1
そうそう、これ……本当に出てくるとは。
しかもレベルが2? 記憶通りなら、玖我真昼はダイバーとして覚醒した時点でレベルは1だったはずだ。
俺の体になにが起きているんだ?
……どちらにせよ。
「……目立ちたくないな」
これから、世界中でダンジョンが現れ、ステータスやスキルといった概念が人々の中に生まれる。
それと同時に……主要な都市は、壊滅状態に陥る。
なぜか。その答えは単純だ。
多くのダンジョンが、主要国家の主要な都市に出現するからである。
日本のみならず、世界中が混乱に陥れられる。
それを救うのが、ダイバーの中でも生産系と呼ばれるスキルに目覚めたものたちだ。
それでも、しばらくは人々の混乱は収まらず、一時はあわや戦争かといった雰囲気に世界がなったという。
……まあ、俺一人が声を上げたところで、なにかが変わるとも思えない。
それなら、俺一人がその動乱の一か月を安全に過ごすための準備をしなければならない。
少なくとも一か月の間は食料や日用品などの流通がほぼストップ状態になるので、非常食や保存の効く日用品を買い溜めしておかないと。
幸い、水や電気は少しの間ストップするようだが、主人公の住む街はすぐ復旧したようであるし。
……原作ではもちろん、主人公はなにも準備できずにその動乱の一か月を迎えた。
15歳という幼い年齢で孤独のまま一か月を過ごした彼は、その過程でかなり荒んで強くなるが……そんな経験、俺には必要ないからな。
とりあえずは、今できることをしよう。
手始めに、非常時に使える物の買いだめだ!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「つかれた……」
二日間にかけてホームセンターと家を往復し、いろいろ買い集めた俺は、汗だくのままソファに寝転がった。
動乱の一か月は冬真っ只中。
防災グッズ、なかでも冬に必要な防寒等のものを中心に集めた。
まあ、あと二年はあるので、非常食とかは都市壊滅の二か月前とかに買えば大丈夫……なはず。
ついでに日用品も多めに買ったし、しばらくの間食べるにも困らないはず。
学校はしばらく休んでるが……そろそろいかないとか。
憂鬱だな……中学に入ってすぐに父親が死んで、ほぼ登校してないまま休んでたし。
グループとかももうできちゃって、俺の居場所はもうないんだろうな……はあ。
でも行かなきゃか。
前世では大学生やってたし、中学レベルなら大丈夫だろ。
一応、ガリ勉で通ってきてるし。
「……明日は学校、行ってみるか――」
――翌日。
薄い記憶を辿りながら学ランを着て、とりあえず今日の教科わからないし教科書は置いて、ノートだけ何冊か持って家を出た。
これまた薄い記憶を辿ってなんとか学校に到着して、下駄箱をうろうろして自分の名前を見つけ、それと同時にC組だという情報もゲットする。
教室の前で立ち止まる。
ほんっとに嫌だなこの感じ。
嫌が応にも目立たなきゃいけない。
通りすがっていく、おそらく同じクラスの同級生たち。
不思議そうな顔で俺をみるが、まあ、全員穏やかそうな顔してるし、大丈夫か。
廊下側でたむろしている女子に、ねえ、と声をかける。
「俺、玖我真昼。俺の席わかるかな?」
「え? あ! 玖我くん!」
「玖我?」
「玖我だ」
「玖我の席ここだろ?」
「久しぶりじゃん! ナイス登校!」
……あ、あったかすぎるだろこのクラス。
原作では、主人公は中学をほぼ保健室登校で過ごしながら、自習で勉強して卒業した。
そして受かった高校に最初の数日は行くが、ダイバーとして覚醒して、自主退学。
まともな青春を送らずに大人になり、20歳の誕生日を迎えた、というエピソードから原作は展開していく。
だからまさか、こんなにあったかいクラスだったとは夢にも……いや。
温かいクラスだったからこそ、行きづらかったのかもしれないな……。
「俺、教科書とか持ってこなかったんだけどさ……今日なにやるかわかんなくて」
席に荷物を置きながら、そう話すと、ショートボブのタレ目タレ眉の穏やかそうな女の子が、手をゆるりとあげた。
「隣の席私だから、一緒に見よ。社会と理科だけ後ろのロッカーに貸出用あるから、それ使えばいいよ」
「マジ? ありがとうほんとに」
「私は一ノ瀬かなの。玖我くん、よろしくね」
「よろしく」
一ノ瀬かなの……うん、原作でも聞いたことないな。
じゃあ、関わっても大丈夫そうか。




